信州読書会 書評と備忘録

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カテゴリー:イーヴリン・ウォー

2013年10月31日

ブライヅヘッドふたたび イーブリン・ウォー 吉田健一訳 ブッキング その4

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★コーデリアの話


ブライズヘッドの妹にコーデリアがいます。

器量もよくなくて、尼僧を目指すのですが、
最終的には、赤十字のような組織に入って
スペイン戦争の野戦病院で働きます。

彼女は、小説の第四章で、チャールスやジュリアと再会します。

チャールスは、再会したコーデリアの印象を


コーデリアが「器量がちっともよくない」女に成長し、

あれだけの燃えるような愛情を血清注射や殺虫剤で紛らわしていると思うのは悲しかった。

コーデリアが旅行に疲れて、何となくみすぼらしい服装をし、

人目を惹くことに関心をなくした女の歩き方をして到着した時、

私は彼女を醜い女だという感じを受けた。




と述べます。


しかり、コーデリアから、北アフリカでアル中になって

修道院に入ったセバスチャンの話を聞かされているうちに、

チャールスは、彼女の心の美しさに気づきはじめます。


そして、コーデリアから、逆にこういわれます。


「貴方とジュリアと、……」とコーデリアは言った。

そして家が近くなってから、

「昨晩、私がついた時、『可哀そうに、コーデリアはあんなにいい子だったのに、

器量が悪くて信心深い一人ものの年増になって、慈善事業に憂き身を窶している、』

ってあなたは、お思いにならなかった、『成長を妨げられた、』って。」


嘘がつけるような場合ではなかった。「思った、」と私はいった。

「併し今はそうでもないね。」

「変ね、」とコーデリアは言った。

「それは私は貴方とジュリアのことを考えていて、頭に浮かんだ言葉なのよ、

皆でばあやの部屋にいるときに。『成長を妨げられた情熱』と私は思ったの。」

コーデリアは母親譲りの、僅かに皮肉を込めた優しい口調でそれを言ったのだったが、

それから暫くして、このコーデリアの言葉が切実な感じを伴って記憶に戻ってきた。



コーデリアの存在は、

チャールスにとってもジュリアにとっても

重要な役割がなかったのですが、

彼らは、『成長を妨げられた情熱』の中で人生を苦しんでいたことを、

皮肉にもコーデリアから教わります。



これが、この作品の宗教的な教訓として、非常に強い印象を残しました。


実はこの話を聴いて、このコーデリアのいう

『成長を妨げられた情熱』のことが思い出されました。


いちばん可愛がらなかった子に世話になる因果の話です。




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posted by 信州読書会 宮澤 at 20:24| Comment(0) | TrackBack(0) | イーヴリン・ウォー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年07月25日

ピンフォールドの試練 イヴリン・ウォー 集英社版 世界の文学15


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★あらすじ
名高い小説家のピンフォールドは、
睡眠薬の副作用で気が重くなり、転地療養しようと
船でインドへ出かける。


船に乗り、睡眠薬を減らすと、
船室でピンフォールドは様々な幻聴に悩まされる。
途中で船をおりて飛行機に乗り換え、
妻の迎えに従って帰国すると症状は消える。


ピンフォールドの船室にいろいろな人々の声が聴こえて、
最初はピンフォールドの噂話だったのが、


やがてエンジェルという架空の家族の人々による彼への罵倒になる。
彼をアル中だ、ファシストだ、ユダヤ人だ、同性愛者だと
かなりえげつないが、気の利いた言い回しで中傷してくる。
堪忍袋の緒が切れて、彼も応酬して罵るという荒廃した内容なのだが、
ピンフォールド自身が誇り高く、頑迷で、気難しくて、怒りっぽいので、
やりとりにおもわずふきだて笑うところがいくつもあった。



ピンフォールド自身は、イギリスの余裕派みたいな小説家で
ピカソや、日光浴や、ジャズが大嫌いで、
宗教心から受けたささやかな慈愛によってそれらへの嫌悪を退屈にかえたという
鼻持ちならない男で、文学に関する考えも年季の入ったスレ方をしている


たいがいの小説家は一つか二つの本の材料を持って生まれてくるだけで、後はすべて手品を使っているに過ぎないのであり、それがディゲンズやバルザックでも、明らかにそうして手品を使って読者を瞞しているのだった。



こういう考えで、数々の作品を生み出し令名をはせている。


船長には従わなければならないと思ったり、
幻聴に出てくる陸軍少将に勝手に敬意を払ったりと、
軍隊の秩序への郷愁を、無意識に表す場面もあるので
幻聴の原因は直接には触れられていないが、
私の見解としてはしては、人付き合いが苦手なピンフォールドの
第一次世界大戦での適応しがたかった従軍体験へのストレスが
(輸送船で勤務していた経験があり、パラシュート降下では足を骨折した。)
狭い船室と、睡眠薬の中止によってPTSDとして発症したとみている。


(最近、どうも私は小説に戦争の影響を見つけ出す読み方になっているが・・・)


語り口が饒舌で精神疾患を扱ったわりには
ウィットにあふれた作品であり
訳者の吉田健一によるとウォーは文章家なので(まあ、手練という意味か)
気軽に楽しめる作品としてお薦めだ。



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posted by 信州読書会 宮澤 at 09:14| Comment(0) | TrackBack(0) | イーヴリン・ウォー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年06月15日

ブライヅヘッドふたたび イーブリン・ウォー 吉田健一訳 ブッキング その3

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セバスチャンとともに夏休みを過ごしたチャールスは
新学期の始まる秋から、深い倦怠に包まれる。





彼らの奇矯な友人の一人である、アントニー・ブランンシュが、
退学したことで、アントニーを取り巻いていた未熟な青年たちは、
一般人の群れに戻っていったために、チャールスは余計に孤独になる。


それは、セバスチャンとて同じであり、彼らは銘々、
友人たちの交際を必要最小限にし、孤独を愛するようになる。



まもなくして、チャールスは、セバスチャンの妹、ジュリアと再会し、
彼女のボーイフレンドであるレックス・モットラムと出会う。
彼はカナダの代議士で、カナダのヨーロッパ派遣軍の元軍人だった。




ジュリアは彼を、誰に対してもその頃のジュリアは
そうだったように、幾分軽蔑しているのが感じられたが、
それと同時に彼に対してかなり我がままに振まった。




食事の途中で彼女は一度、煙草を取りに彼を車まで行かせ、
彼が、あまりにも大きな口を利くと、
「この人は植民地の人間ですからね、」と言って
彼のために弁解した。


これに対して彼は、大笑いすることで答えた。


こんな感じで、レックスは成り上がりの俗物なのだが、
セバスチャンとチャールスは、軽蔑している彼のような人物の
主催する慈善舞踏会に、皮肉にも招待され、冷やかしで出かける。
シャンパンを飲むだけ飲んで、開会前にバカらしくなって抜け出し、
チャールスらは、マルカスターが昔一度行っただけの売春宿に出かけて、
売春婦を同乗させ、ホテルを探して、酔っ払い運転しているうちに


危険運転で警官に逮捕され、一晩ブタ箱に入れられる。


結果、軽蔑しているレックスの政治力により留置場から救い出される。
兄セバスチャンとチャールスが同性愛者だと疑っていたジュリアは
疑惑が晴れて、逆に、彼らへの尊敬の念を深める。



★感想
軽蔑している人間の世話に、警察がらみで厄介かけるほど、
世の中で恥ずかしいことはない。それも下半身の事情で。
思い出すだけで死にたくなるような若気のいたりの恥辱を、
まざまざと小説化してくれた一節である。




「誰に対しても幾分軽蔑的な女性」の魅力というのは、
昨今、男性にとって、よく論議される問題である。
とりあえず、ジュリアはツンデレ。


ブライヅヘッドふたたび


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posted by 信州読書会 宮澤 at 14:21| Comment(0) | イーヴリン・ウォー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年06月11日

大転落 イーヴリン・ウォー 岩波文庫


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★あらすじ
名門のパブリックスクール、スコーン・カレッジの学生で好青年の
ポール・ペニーフェザーは学友の乱痴気パーティーに巻き込まれ、
下半身まるだしで中庭を走った廉で放校処分となる。



ラナバの高校の教師として職を得て、
ホモで重婚常習犯グライムズ、異端の聖職者プレンターガスト、
詐欺師のフィルブリックという奇矯な同僚の先生方ととともに
上流階級の子弟を教育することになる。


この生意気な生徒たちは、知的な学級崩壊を目論み反抗的である。


1. 朝、生徒一人一人がおはようございますを連発する。
2. 自己紹介をさせるとみんな同じ名前を名乗る。
3. 徒競走させてヨーイドンといっても動かない。走り出すと集団で行方を晦まして帰って来ない。 
4. 音楽会をやると昼食のプリンがまずいと言って国歌斉唱を拒否。



そんなバカな生徒にも腹を立てず、品のよい無関心を心得ているポールはやがて
ある生徒の父兄である大富豪で美女のベスト・チェトウイント夫人と懇意になり学校を辞職。
婚約を交わし、結婚準備の傍ら、彼女が南米で展開する興行の事業を手伝うが、
売春斡旋容疑で逮捕され、七年の懲役刑でムショにうたれる。


刑務所でなぜか、同僚のグライムズをはじめとする学校の同僚と再会する。
その後、チェトウイント夫人の尽力で盲腸を理由にサナトリウムに搬送され
手術中に死亡したことにして脱獄するが、気まぐれな夫人に捨てられる。


しかたないので、偽名でスコーン・カレッジに舞い戻り、学生生活をやりなおす。



★感想
ウォーが26歳で発表した処女作。
表紙にその頃のウォーの写真がある。
一見して不遜極まりない面構えであることがわかるが、
それに負けないくらい、この小説は人を喰った内容で、シュールな笑いに満ちている。


こんなに笑ったのはいつぶりだろうというくらいたっぷり笑わせてくれた。


とくに同僚たちとの会話の不真面目なかましあいが笑える。知的なユーモアの話柄が豊富である。
その一端でも紹介できればと切に思うのだが、
どれもふくみ笑いを誘うものなので前後の文脈なしの紹介はかなり難しい。

面白かったセリフや言い回しくらいはちょっと紹介したい。



「手遅れ、もう手遅れ。この世で一番悲しい言葉だねえ」(グライムズ後悔のセリフ)
「隠れた元気を引き出すには、衣替えが一番だ」(グライムズ無責任な慰めのセリフ)
「冒涜的人肉市場に快楽を求める人間吸血鬼」(刑務所所長によるポールへの罵倒)
「ぼくと出会う人間はどうしてこの種の自叙伝が得意なんだろう」(ポール困惑のつぶやき)
「いきおいでプルーストを一揃え買ってしまった。」(感極まったポールの行動。マルセイユにて。)



全編、社会的良心のかけらもない最低なユーモア小説だが、唯一教訓があるとすれば、
「人生は遊園地ある大車輪のようなもので輪の中心に静止した場所がある。
みんなそこにしがみつこうとするが、端っこで振り回されるのを愉しむものもいる。
重要なのは、全然乗る必要がないこと」という内容のセリフである。



なかなか含蓄がある。


スコーン・カレッジは、ウォーの卒業したオックス・フォードがモデルである。
まあ、オックス・フォードくらいの名門学校にいたことがあれば、
どんなに世の中をはずれていようが、渡りきれるという自信に満ちたイヤミな小説でもある。


英国流の「知的な青年のポーズ」を学びたいならお薦めしたい。期待に充分こたえてくれる。


大転落 (岩波文庫)



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posted by 信州読書会 宮澤 at 11:51| Comment(0) | イーヴリン・ウォー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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