信州読書会 書評と備忘録

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カテゴリー:評伝

2013年07月25日

宿六 色川武大 色川孝子 文春文庫

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宿六・色川武大 (文春文庫)

「狂人日記 」「百 」などで知られる色川武大。
阿佐田哲也の名で「麻雀放浪記」など麻雀小説も多数手がけた。
彼の夫人による回想録である。
色川の無頼と懐の深さは有名で、井上陽水、黒鉄ヒロシ、伊集院静など有名人から、
彼の家に押しかけてくる無名の作家志望の青年、
賭博仲間のヤクザまで幅広い交友関係を躊躇みせることなく受け入れた。
色川夫人は、色川武大の20歳ほど年下のいとこにあたり、
時には娘のように奔放に、時には母のように献身的に、生活を共にした。



ナルコプレシーという奇病を患いながらも、
他人に対する過剰なサービスをやめることができない色川の自己演出を心配するくだりは、
立川談志が「阿佐田哲也を殺したのはこいつらだ」と喝破した
「阿佐田哲也の怪しい交遊録 」のあとがきと双璧をなしている。




色川の過剰なサービス精神は、純文学作家への憧れがなせる業であり、
佐藤春夫や広津和郎のような誰との分け隔てなく付き合って、
財産も残さないある種の純文学作家の系譜につらなることがこの本からわかる。
伝説につつまれた色川像を壊すことなく、意外な一面を付け足してくれたという印象の本。
ファンにとっては読む価値がある。


一部知人の間では、出版しないほうがよかったんじゃないかという声もある。



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posted by 信州読書会 宮澤 at 10:31| Comment(0) | TrackBack(0) | 評伝 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

梶原一騎伝 斎藤貴男 文春文庫

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『巨人の星』『あしたのジョー』の原作者である梶原一騎の評伝。


私が梶原作品で読んだのは『プロレス・スーパースター列伝』
高校生の頃、復刊した『あしたのジョー』友人に薦められて読んだくらいである。


80年代の新日本プロレスはビデオで出た物しか観ていないので、
当時の熱狂はおぼろげにしか知らないが、
3歳の頃タイガーマスクが引退したのは大事件だったのでおぼえている。


『あしたのジョー』は非常に感銘を受けたが、今は読み返す気はしない。
しかし、スランプ時代の手塚治虫が
『あしたのジョー』の何が面白いのか教えてくれと悩んだそうな。


漫画原作という、作家としては評価されずらい仕事に鬱屈を抱きながらも
スポ根ものというジャンルを築き上げ、少年の心を鷲掴みにしたものの
様々なスキャンダルにまみれて不遇の人生を終えた梶原の人生が痛々しい。


感化院で過ごした幼年時代、大山倍達との確執、猪木監禁事件、家族との秘話など
波乱万丈の人生とともに、少年雑誌や格闘技、映画の同時代史も語られていて面白かった。


三島由紀夫に代表される純文学の世界に憧れながらも、
現代でいうサブカルチャーの礎となる仕事しか
残せなかった男の屈託した実像に迫れる一冊。


少なくとも『男の星座』は機会があったら読んでみようと思った。
ちなみに少年漫画雑誌の歴史という点で
「さらば、わが青春の『少年ジャンプ』 」西村繁男 幻冬舎文庫もお薦め。



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posted by 信州読書会 宮澤 at 09:48| Comment(0) | TrackBack(0) | 評伝 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

巨魁 岸信介研究 岩川隆 ちくま文庫


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「安倍晋三の原点がわかる!」と帯にある。
現総理の祖父、昭和の妖怪、岸信介の評伝。


戦前、商工省官僚として満州で活躍し、商工大臣へ、
戦後は、A級戦犯容疑者として巣鴨プリズンへ入獄。
不起訴となり、戦後瞬く間に総理総裁となった。


政治資金をめぐる汚職の疑惑では、
FX商戦や賠償ビジネスが大きく取り上げられている。


人脈も金脈も極めて不透明な宰相でありながら、
安保改正によって、日米関係を双務的なものにし
戦後政治へ不可逆的な道筋をつけたのを知ることができた。
岸こそがその後の池田、佐藤内閣へ続く自民党の安定政権の礎をなしている。



安保改正を実現させるためには、安保反対のデモ隊制圧に自衛隊の出動も辞さない
強権的な政治姿勢と一方でアイゼンハワーの訪日断念という恥辱的妥協とを
演じてみせた政治家としての太い腹の座り具合に凄まじい迫力を感じた。


目的のためには手段を選ばないというリアルポリティックスは、
岸を嫌悪していた池田の支持を、次期首相ポストを担保に取り付けて
安保改正を成し遂げ、岸の築いたアメリカとの強い絆の元に
池田の「所得倍増計画」を成し遂げさせるという布石まで打つ周到さを秘めていた。


数万人の群集に包囲されながらも、官邸に立てこもり怒号に決して屈しない。
国民の不支持に斟酌なく政治的達成を得るのに必要なタフネスの在り処を記す一冊。


憲法改正や再軍備など、日本を国家として独立させようという強い理念。


岸総理大臣の悲願は、その後50年閑却されたまま
現在にいたっても、政治の根本的な問題として手つかずのままである。


追記

5年前に書いた記事です。
今は、孫の安倍晋三総理によって、憲法改正、再軍備が急ピッチにすすめられています。

岸−安倍を取り巻く、政治勢力の本当のところは、
この本にもちゃんと描かれていない。


巨魁―岸信介研究 (ちくま文庫)


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posted by 信州読書会 宮澤 at 09:04| Comment(0) | TrackBack(0) | 評伝 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年06月10日

レーニン レフ・トロツキー著 光文社古典新訳文庫

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レーニンを最も敬愛したトロツキーが
彼の死後に思い出を綴った1925年の著作


まず、私は、ロシアの革命についてはほとんど断片的な知識しかもっていない。
一番興味を持ったのは、ロシア・アバンギャルドだったので
革命時代に活躍したマヤコフスキーやマレーヴィチについては
評伝や論文をいくつか読んだが、結局未来主義には刹那的な興味しか持てなかった。


マヤコフスキーについて調べたときにトロツキーの『文学と革命』を読み始め
鋭い分析に刺激を受けたものの、文学は、最終的には政治に従属する物という


彼の論文について行けず放棄した。
特に、マヤコフスキーに対する彼のやけに冷静な態度は私を白けさせた。



以前、ロシアパブによく飲みに行っていた時期があったが、
(周期的に入管法が厳しくなり、現在はロシア人が歓楽街から姿が消している。)
ロシアの女性と話して(ほとんど日本語だが)驚くのは、
彼女たちの1/3くらいが貧乏な学生で、
なかなかインテリであり、学資を稼ぐために来日していたことだ。


ブルガーコフの『巨匠とマルガリータ 』を愛読したり、
エセーニンの詩句をそらんじたりする才媛が結構たくさんいた。
ちなみにマヤコフスキーは、ロシアの教科書に載っているので
彼女たちはみんな知っているが、ソビエト時代の象徴的存在でほとんど人気がない。


そんなわけで、話がかなりそれたが、トロツキーが本当に愛していたのは
文学者ではなく、レーニンただひとりであるいうことが、よくわかる本なのである。
トロツキーは、もともとメンシェビキなのだが、
ロンドン亡命時代のレーニンを訪れ、感化されて側近になった人物である。


帰国後、『歴史は塹壕から作られる』として兵士の蜂起を訴え、
国内の革命を優先し、交戦中のドイツと平和条約を結ぶなど
危うい綱渡りで新しい国家を築き上げたレーニンをトロツキーは間近で目撃してきたのである。


ソビエトの法令をひとりで作り上げ、時間と戦いながら一つの国家を築き上げ、
自分の信じていることを超人的な能力を実現してゆくレーニンを
ただただ、驚嘆のまなざしでみつめるトロツキーが本書には存在する。


レーニンの創造性は、ロシア・アバンギャルドの創造性を凌駕していることがわかる。
だからこそ、トロツキーもスターリンも文学を政治の従属物とみなしたのだ。


1917年10月の最も魅力的なレーニンに出逢える本。お薦め。

レーニン (光文社古典新訳文庫)


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ラベル:レーニン 
posted by 信州読書会 宮澤 at 13:33| Comment(0) | 評伝 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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