宿六・色川武大 (文春文庫)
「狂人日記 」「百 」などで知られる色川武大。
阿佐田哲也の名で「麻雀放浪記」など麻雀小説も多数手がけた。
彼の夫人による回想録である。
色川の無頼と懐の深さは有名で、井上陽水、黒鉄ヒロシ、伊集院静など有名人から、
彼の家に押しかけてくる無名の作家志望の青年、
賭博仲間のヤクザまで幅広い交友関係を躊躇みせることなく受け入れた。
色川夫人は、色川武大の20歳ほど年下のいとこにあたり、
時には娘のように奔放に、時には母のように献身的に、生活を共にした。
ナルコプレシーという奇病を患いながらも、
他人に対する過剰なサービスをやめることができない色川の自己演出を心配するくだりは、
立川談志が「阿佐田哲也を殺したのはこいつらだ」と喝破した
「阿佐田哲也の怪しい交遊録 」のあとがきと双璧をなしている。
色川の過剰なサービス精神は、純文学作家への憧れがなせる業であり、
佐藤春夫や広津和郎のような誰との分け隔てなく付き合って、
財産も残さないある種の純文学作家の系譜につらなることがこの本からわかる。
伝説につつまれた色川像を壊すことなく、意外な一面を付け足してくれたという印象の本。
ファンにとっては読む価値がある。
一部知人の間では、出版しないほうがよかったんじゃないかという声もある。
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