若く美しく女蕩しの父を持つセシルが、父の恋人エルザと三人で南仏へバカンスに出かける。
そこへ、亡くなった母の古い友人であるアンヌがやってくる。
アンヌはファッションデザイナー、知的で洗練されて魅力のある女性だったが、
セシルには高慢で冷淡な女にも見え、かすかに反発をおぼえていた。
だが、セシルにとってアンヌは、軽薄な父や自分のいる世界と別の知的な世界に住んでいる
人生の達人であり憧れの人物でもある。
セシルの父、レエモンとエルザ、アンヌの三角関係の時間は短く
アンヌの自然な強力な魅力は、エルザからレイモンを奪い取る。
セシルはその模様を間近で眺めながら、アンヌから恋愛そして人生を学ぶ。
アンヌは、恋に恋する17歳のセシルにこう諭す。
『あなたは恋愛について少し単純すぎる考えをもっているわ。それは独立した感覚の連続ではないのよ。(中略)そこには絶え間ない愛情、優しさ、ある人の不在を強く感じること。あなたにはまだ理解できないいろいろなこと……』
要するに、ワンシーンごとの印象と快楽は、恋愛の入り口にすぎないという説教。
アンヌの皮肉や逆説はセシルとってボディーブローのような低い一撃となって堪えてくる。
やがて、セシルはアンナに自分の住んでいる世界を否定され、自尊心を傷つけられる。
そして、最愛の父をアンナの世界が形成されはじめると、
疎外感と孤独に堪えられなくなる。
セシルからすべてを奪い去ろうとする「美しい蛇」アンナ。
セシルは父とアンナの愛を徹底的に妨害し、アンヌを破滅させる。
17歳の少女の若さゆえの無垢な残酷さを、瑞々しい詩情とともに描いた作品。
セシルは、突発的に刃物で人を殺す現代日本の少年と同じくらいヤバイ女の子だ。
なににせよ、人を追いつめて殺しておいて「悲しみよ こんにちは」というだから。
この厚顔さは、恐るべきものだと思う。
サガン19歳のデビュー作。全世界でベストセラーとなった。
人生に対する洞察という点で、すぐれた格言がちりばめられている。
人を傷つけるほどの過剰な洞察力をもてあまして、
退屈している女子大生にはお薦めの作品。
悲しみよこんにちは (新潮文庫)
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