無一物となった私が、アパートの一室でモツに串を刺す私小説。
モツに串を刺す行為が、
輪廻の糸車を回すような狂気の様相を帯びる。
会話は関西弁で味わい深い。
ところどころで生き物や花の美しく詩的なイメージが、
まぼろしのように広がるテクニックがうまい。
思わず紋白蝶を追いかけてしまう主人公が愛らしい。
無気味な挿話もあって効いている。
物欲も性欲も捨てきれない主人公の私が、劣等感に打ちひしがれながら、
業に苛まされ、世を嫉み、出たとこ勝負の冒険の日々を過ごす。
電話ボックスでの金銭の授受や
彫り物師から箱を預かったおかげで因縁をつけられるシーンなど
スリルとサスペンスに満ちている。
この作品の中で好きなフレーズは、
「腐れ金玉が勝手に歌を歌いだす」
溜まっていた性欲が、最後のほうでみごとに発散される。
この小説にでてくる登場人物はみんな目つきが悪い。
還俗した坊主の世迷言を仏教説話集にまとめたような作品。
触るものみな傷つけるといわれる車谷作品では、もっとも落ち着いて無害なので読み易い。
他の作品では実名で悪罵を連ねるものもあり
心理的の食あたりを起こすので要注意。
赤目四十八瀧心中未遂
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ラベル:車谷長吉