Sponsored link
大本営参謀として情報部において米英担当し、
マッカーサーの参謀とまで謳われるほど高度な情報分析を行った堀栄三参謀の回顧録。
日本の敗戦の原因を、情報の不在から具体的に説き起こした名著である。
ミッドウェー海戦での敗北を機に守勢に回る日本軍において、
アメリカ軍が制空権を完全に掌握し、「飛び石作戦のローテーション」と呼ばれる戦法で
次々に日本軍を玉砕させていく中、
その戦法をいち早く見抜き、アメリカ軍の上陸地点の予測や戦力の分析によって、
フィリピンでの第一師団の持久作戦を可能にした事実が明らかにされている。
しかしながら、情報部米英課ができたのが、太平洋戦争開始から6ヶ月後であることや、
大陸戦しか経験してこなかった司令部が、制空権を軽視していたこと、
作戦部が情報部の電報を故意に握りつぶし、悪名高い大本営発表によって戦況をますます悪化させたことなど、
情報戦においてすべて米軍の後手にまわるしかなかった日本軍のお粗末な状況が赤裸々に描かれている。
『政治も教育も企業活動も、一握りの指導者の戦略の失敗を、
戦術や戦闘で取り戻すことは不可能である。』
という著者の指摘は、現代日本の構造的欠陥への鋭い批判とも読める。
戦史研究の書としては必読の書であり、
先の戦争を民衆の視点から描いた戦争文学(たとえば原民喜の「夏の花」)と
軍務に関わったものの記録としての本書を交互に読むことで敗戦からの教訓は導き出されなければならない。
本書を読んで大岡昇平の「レイテ戦記」の作品の意味もわかってきた気がした。
敗戦後、軍人であった父に、「負け戦を得意になって書いて銭を貰うな!」と諌められ
長い沈黙を守ってきた堀栄三を一年かけて説得し、この書を書かせた保坂正康の情熱もみごとだ。
大本営参謀の情報戦記―情報なき国家の悲劇 (文春文庫)
Sponsored link