モラーヴィアといえば、イタリアの三島由紀夫というイメージが私の中にある。
20歳で本書を処女作として上梓した早熟な才能であるという点と
現代文学において物語を書くことの
孤独と不毛を象徴している作家であるという点においてである。
主人公の青年ミケーレは没落寸前のブルジョワ。
家庭の崩壊を食い止めることもできず、
恋愛にも真剣になれず、情熱を傾ける対象を見失っている。
会話と心理描写は、ガラス工芸品のように繊細で
すべてセクシャルな欲望の陰影をまとう。
道徳的規範がもはや形骸化して、欲望に呑み込まれていく
世界の光景が描かれている。
ただただ、崩壊の前に立ち尽くすミケーレは
今現在の日本の状況に出て来ても違和感のない主人公だ。
ブルジョワの頽廃を描いたかどで本書は
当時のファッショ政権から発禁処分を受けた。
古典的な心理小説の方法を採用しているので読みやすく、
破綻のない構成なので安心して読める。(三島の小説と同じように)
ハイティーンの学生が喜んで読んだと吹聴したくなる作品。
読書遍歴を重ねると読み返すのが苦痛になる作品でもある。
モラーヴィアの作品はかっちり作られていて
映画化の際に自由に脚色できるので重宝がられ
ベルトルッチの「暗殺の森」ゴダールの「軽蔑」などの
原作として、今なおファッションアイテムのように
二次的に消費されている。
モラーヴィアが好きな人にはパヴェーゼもお薦め。
無関心な人びと〈上〉 (岩波文庫)
無関心な人びと〈下〉 (岩波文庫)
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