信州読書会 書評と備忘録

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2013年07月25日

十九歳の地図/蛇淫 他 中上健次 小学館文庫

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『ぼくは十九歳の予備校生だった。
いや、新聞配達少年だった。ぼくは希望がなかった。』


主人公の「ぼく」は、自分に折り合いのつかない少年。
寮の同室、三十過ぎの紺野は、淫売のマリアさまという
実在するかわからない娼婦の話をぼくに聴かせる。
「ぼく」は紺野をこんな心底軽蔑していて、
こんな風になるなら死んだほうがましだと思っている。
しかし紺野はぼくの心を見透かしたかのように



『三十男はきたならしいな。自分で自分を殺すなら二十五歳までだな。』


と言ってのける手ダレのダメ男。自虐的でしたたか。
だが彼は作品の重要人物だ。



「ぼく」は、みすぼらしい日常生活に堪え切れず、
配達先の気に入らない家庭を地図におとして



『松島悟太郎、この家は無印だが、発見した場所を記念して、
一家全員死刑、どのような方法で執行するかは、あとで決定することにする。』


以上のようなことをつぶやきながらの綿密にリストアップし、
イライラすると次々に脅迫電話をかける。
時には右翼と偽ったり、
東京駅に電話し、狂った兄が夜行汽車に爆弾を仕掛けたと脅す。



やがて、紺野が淫売のマリアさまから金をもらったことを自慢し、
「ぼく」は女に愛されない、紺野以下の人間だと自覚する。
いたたまれなくなってまた脅迫電話をかけ、しまいには号泣する。
別に、犯罪には手を染めない。


この小説は、 梶井基次郎の「檸檬」と同じだと思った。


現実とみすぼらしい自分とのギャップを埋めようとしたとき
檸檬の主人公は、丸善の本棚に洋書を重ねて


爆弾に見立てたレモンを置いたのだし、
「十九歳の地図」の「ぼく」は、自分を受け入れない現実への復讐のために
脅迫電話をかけまくったのだと。


ただ、「十九歳の地図」は「檸檬」に比べて、
美的なものが一切排除されているので
詩情の抑制された、陰惨な仕上がりになっている。


大江健三郎の「セブンティーン」の影響が指摘される作品だが、
案外、安岡章太郎の「悪い仲間」に近いと私は思う。
女を知っているか、知っていないかという
青春の大問題を扱っているのだ。
隣のアパートの夫婦の痴話喧嘩を「ぼく」が醜く思うのは、
そこが原因だろう。紺野はそんなこと思わない。


中上健次の習作と位置付けられる作品。
柳町光男監督で映画化された。
主演は「ゴッド・スピード・ユー!/BLACK EMPEROR 」に出ていた人。
誰だか忘れました。


十九歳の地図・蛇淫 他―中上健次選集〈11〉 (小学館文庫)







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posted by 信州読書会 宮澤 at 10:22| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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