信州読書会 書評と備忘録

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2013年07月25日

海辺のカフカ 村上春樹 新潮文庫

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カフカという少年が、「父を殺し、母と姉を交わる」という父の予言から抗うために旅に出る話と
少年時代に戦争中疎開先で一切の記憶を失ない、文盲となり、
星野青年と旅に出る中田さんという老人の話がパラレルに語られ最後に集束する作品。


村上春樹の作品は、私は半分くらいしか読んでない。
重要な作品である「世界の終りとハードボイルドワンダーランド」「ねじまき鳥クロニクル」は
途中で挫折した経験がある。
しかし、「国境の南 太陽の西」は一気に読んだ。
これだけ、毀誉褒貶の喧しい作家もいないが、私にとって一番の問題は


登場人物の関係がフラットで、セックスや恋愛を通して描いた人間関係はともかく、
それ以外の人間関係を描いた部分に厚みがなかったり、
魅力がなかったりするところだろう。そこがいつもネックになる。



その点で「海辺のカフカ」はソフォクレスのオイディプス王を下敷きにしているとはいえ
なんとか家族関係を描こうとしているので、新鮮だった。
それ以上に新鮮だったのは星野青年と中田老人の関係を見事に描いたことだ。



それにしても、様々な作品が引用される。
マクベス、坑夫、流刑地にて、大人は判ってくれない、源氏物語、菊花の約、ヘーゲルetc.
その他、登場人物の聴くロックやクラシックのナンバー。


これら以外で、私が参考、引用しているなと思った作品名を挙げたい。



まず構成だが、「世界の終り」と同じパラレルストーリーは、
フォークナーの「野生の棕櫚」を思い出させた。


少年が森に行って背の高い兵隊と低い兵隊に出会うのも
「野生の棕櫚」の脱獄囚の話を思い出させる。



少年が森に入って、持ち物を捨てて、森に溶け込むのは、
フォークナーの「熊」に同じ場面がある。


四国の森は大江健三郎の「万延元年のフットボール」以降の諸作品。



中田さんが会話する「入り口石」 その沈黙する石は、
パウル・ツェランの「ことばの柵」所収の「ストレッタ」のテーマ。


ユダヤ人強制収容所アウシュビッツの入り口の白い石。
佐伯さんが落雷にあった人のインタビューをまとめた本を出版したのは
「アンダーグラウンド」を書いた作者自身の体験を織り込んだもの。



勝手な推量だが、創作において以上の点は参考引用にされているのではないかと思う。



そもそもオイディプス王のテーマが中心テーマにして、これだけの作品を引用し作品世界を創造し、
なおかつ、少年犯罪や猫殺し、集団ヒステリーなどキッチュな話題も交え、
神話の予言を変則的な形で成就させて小説を終わらせた手腕は巧みだと思う。



私が、特にこの作品で楽しかったのは、星野青年が出ている章だった。
カフカ少年の話は教養小説(主人公の成長の物語)として読めないが、
星野青年だけは確実に小説内で成長してゆくので、
ここだけは教養小説的な読み応えがあった。
この脇役に読了したこれまでの村上作品で感じたことのない親近感と興奮をおぼえた。



オイディプス王のテーマが入っているので、
最初から都合のいいファンタジーが物語の展開上入ってくるのは止むを得ないが、
必然性のないセックスが適当に織り交ぜられるのは、
いつもの村上作品にも感じるが下世話な感じがした。
疎開先の女教師のヒステリーの原因とか、書く必要ないんじゃないかと思う。


それでも、星野青年以外の登場人物は全くもって好きではないが、
構成的には読ませるし、先を読みたいと思わせてくれるだけで
幸せな読書体験が得られるお薦めの作品だ。

野生の棕櫚 (新潮文庫)

万延元年のフットボール (講談社文芸文庫)

熊 他三篇 (岩波文庫)

パウル・ツェラン詩集



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posted by 信州読書会 宮澤 at 10:06| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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