★あらすじ
母が亡くなり、母と離婚して離れて暮らしていた父親を探して
南部の小さな町ヌーンシティにやって来たジョエル。
だが、父親は全身麻痺で寝たきりになっており、
その原因は、父の面倒を見ている同性愛者ランドルフが
銃で背中を撃ったからだった。
13歳の少年ジョエルは、寝たきりになった父を実の父親として実感できない。
同性愛者でアル中のランドルフの住むランディングは、現実感覚が崩壊してゆく世界で、
そこに関わる人々も、おとぎ話の登場人物のように非現実的だった。
恐怖や性的な体験、狂気が渦巻く世界でジョエルは少しずつ大人になり、
やがて、迎えにきた叔母さんとともにその街を去る。
ゴシックホラーやファンタジーという要素が強く、
イメージに頼って成立している脆弱な小説だったが、
ヘンリー・ミラーの作品にあるような投げっぱなしのイメージではない。
カポーティが2年かけて実際の小説の舞台を綿密に取材して書いたので、
慎重に選ばれたイメージだけが使われている印象だった。
プロットもいい加減のようでいて読み通すと結構しっかりしている。
ゴシックのイメージ、性的なイメージ、牧歌的なイメージ
そういったジャンルごとのイメージが
主人公のジョエルの感覚を刺激して物語が展開していくという、
かなりアクロバティックな構成で、気持ち悪いが、新鮮だった。
とりわけ、黒人女性への暴行、小人の性、同性愛者、ロリコン、女装趣味、
こういったクイアーで不健康な性の世界を
純粋無垢な少年の視点を通して描くことで、
リリカルなファンタジーへと昇華させようとした
着想は比類ないものだと思う。
大江健三郎の初期作品「芽むしり 仔撃ち」や「飼育」に似て
性への目覚めと、自然への感受性が一緒くたになっている。
カポーティの作品ははじめて読んだが、しばらくは読みたくない。
目くるめく詩的言語とイメージの倒錯が、翻訳では読みづらい。疲れた。
ホラー小説として読むにはお薦めできるかもしれない作品。
遠い声遠い部屋 (新潮文庫)
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ラベル:カポーティ