信州読書会 書評と備忘録

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2013年06月15日

夢の女 永井荷風 岩波文庫

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★あらすじ
三河の没落武家の娘、お浪は16で奉公に出されるが、
奉公先の旦那に手込めにされて、そのまま妾となり、一女をもうける。

しかし、旦那は病死。本妻に手切れ金を渡されて縁切りされる。
泣く泣く娘のお種を養子に出して、お浪は実家に戻るが、
老耄した父が詐欺にあい一家は莫大な借金を負う。


借金返済のため、お浪は深川州崎の遊郭に身を沈める。
何年かして、お浪は美貌ゆえに立派な華魁となる。
しかし、小田辺という商人を廓狂いで破滅させて、
部屋で自殺させてしまい悪評で客足が遠ざかる。


失意の日々を過ごすうちに豪放磊落な相場師利兵衛に見初められ、
身請けされて、待合を営むようになる。


待合は繁盛し、お種を妹として迎え、故郷の両親と妹のお絹を呼び寄せ、
つかのまの幸福な日々を過ごすが、年頃のお絹に関心を示す客がいることに
気がついたお浪は、お絹にも客を取らせてしまう。

やがて、利兵衛は外に女を囲い、お浪と別れる
お絹は、若い俳優と出奔、そのショックで父は発狂し、
往来で馬車に轢かれて死ぬ。



★感想
モーパッサンの『女の一生』を元ネタとしたとおぼしい荷風25歳の作品。
お浪という可憐な女性を、これでもかとひどい目に合わせているのであるが、
繊細な江戸情緒が哀歓を催す文飾で綴られているので、読んでいて心地よい。


モーパッサンのほうが、相当にえげつない設定を露悪的に書くが、
荷風は、例えばお浪が遊郭に売られたあとの辛い日々を
大胆に省略するなど、それなりに配慮している。


最終部分でお浪が、永代橋を渡り、遊郭に売られて初めてこの橋を
渡った時分を思い出すシーンが、なかなか美しかった。
だが、お浪が、妹のお絹を売春婦にしてしまう変節ぶりには寒気を感じる。

優しいお浪の心が、その核心において知らぬ間に残酷な運命によって歪められており、
それがクライマックスの父の発狂と事故死の遠因となるのだが、
こういった因果応報を25歳で描いた早熟ぶりは、信じられない。

ただ、モーパッサンの自然主義を、その根幹にあるキリスト教倫理観との対決抜きで
江戸情緒の中に移植するというのは、やはり無謀であり、徒労であると思った。

お浪の悲惨な運命と倫理観の崩壊の原因が、結局は武家の没落に集約されてしまっている。

外国文学の無理やりの輸入が、日本の近代文学の宿命であることを
証明した作品であると思えば、なかなか無残な読み物である。

ゆえに、晩年の永井荷風の孤独と偏屈もそれなりに頷けるものがある。


夢の女 (岩波文庫)


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ラベル:永井荷風
posted by 信州読書会 宮澤 at 14:45| Comment(0) | 日本文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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