信州読書会 書評と備忘録

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2013年06月15日

暢気眼鏡・虫のいろいろ―他十三篇 尾崎一雄 岩波文庫

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★あらすじ
小説家志望で、貧窮生活に喘いいでいる主人公の私は、
前の女房をDVで痛めつけた上、友人に譲る形で離婚する。



離婚して一年後に、私は田舎から上京してきた芳江という女と結ばれる。


芳江は、下宿も追い出されるような困窮生活の中でも全く暢気である。
私は、そんな芳江が『暢気眼鏡』をつけて世間を眺めているのだと
感心して眺めている。


そんな芳江も、困窮生活で絶対に子供を作れない時期なのに、
避妊具に細工をして、妊娠してしまう。


お金に困り、芳江は「マネキン倶楽部」(今のモデル事務所か?)で
アルバイトしたり、金歯を売ったりして糊口をしのぐ。


だが、『暢気眼鏡』の芳江もあまりにひどい貧窮のために、沈鬱になる。


最後に作者が出てきて、
この短編を一気に書かなかったことを後悔して終る。


★感想
志賀直哉の高弟、尾崎一雄の出世作。
『暢気眼鏡』は9つ連作短編の最初。
この話の続きはあるらしいが、とりあえずこれだけ読んだ。


私小説だが、宇野浩二の『苦の世界』のような暗さはない。 


★気にいったエピソード
下宿を追い出され、この夫婦は友人の家に押しかけて泊まる。
(檀一雄の家という説あり)
翌朝、三人で、キャッチボールをする。


主人公より、芳江のほうが野球は巧く、速球をグローブでさばいてしまう。
しかし、芳江が妊娠しているのにキャッチボールをしていることに気がつき、やめさせる。


一見どうでもいいエピソードだが、新婚生活の眩しさを描いている。
このキャッチボールシーンは狙って書いたようないやらしさがなく、


自然に書かれているので驚嘆する。


保坂和志もこういうシーンを書きたがるが、なぜか臭みがのこる。


私は、「芳江」のことを「芳兵衛」と読んでいる。
奥さんのことを、「芳兵衛」と呼ぶ旦那のセンスのなさが、もの悲しい。


つまり、貧窮において、暢気であることの、もの悲しさを描いた作品である。


★構成について
私小説の中でも、とりわけ構成に無頓着な作品である。
著者自身の自己弁護が最後にくるような小説はまず、ありえない。
章立ての仕方も、長さがめちゃめちゃである。半ばエッセイみたいである。



しかし、すごいのはこの小説を読んだ誰もが、
おそらく「芳江」を好きになることである。
彼女の暢気さが、突出した才能のように思えてくる。

とはいっても生身の人間なので、暢気さも続かない。そんなところもいい。
まったく飾ることのない、魅力にあふれた女性である。

暢気眼鏡・虫のいろいろ―他十三篇 (岩波文庫)



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posted by 信州読書会 宮澤 at 14:07| Comment(0) | 日本文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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