信州読書会 書評と備忘録

世界文学・純文学・ノンフィクションの書評と映画の感想です。長野市では毎週土曜日に読書会を行っています。 スカイプで読書会を行っています。詳しくはこちら → 『信州読書会』 
Facebookページ
『信州読書会』 
YouTubeチャンネル
YouTubeチャンネル「信州読書会」
*メールアドレス
名前

 

2013年06月15日

クレチェトフカ駅の出来事 ソルジェニーツィン 岩波文庫所収


sponsored link







★あらすじ
1941年ソ連各地がドイツ軍に侵攻された時代。


クレチェトフカ駅の輸送本部士官ゾートフは、
貨物列車の運行状況を管理している。
まじめなスターリン主義者であり、前線で戦えずに
後方勤務をしていることを後ろめたい気持ちを抱いている。
彼の妻と子供は、ドイツ包囲下の街にいて消息不明である。


当直室に、列車に乗り遅れたというトヴェリーチノフという
モスクワで俳優をしていた知的な老人が現われる。

ゾートフは雑談しているうちにこの老人に好意を抱くが、
「スターリングラード」という地名を知らないために、
逃亡ドイツ将校ではないかという一方的な疑念を抱き、彼を拘留する。
しかし、不当逮捕でなかったかかとその後ゾートフは思い悩む。


★感想
主人公のゾートフは、資本論の第一巻を大事に隠し持ち読んでいるゴリゴリの共産主義者で
スターリンを強く崇拝している愛国心の塊のような人間である。

スターリンを聖人まで崇め、職務に従順であったために
善良な老人を逮捕せざるを得なかった役人の哀しみを描いている。


戦時下、祖国防衛のためには、スターリンを信じて
不幸を堪え忍ぶことでしか生きられないかった。


必然的なものには屈せざるをえないという人間の悲惨をゾートフという役人が象徴している。
それは、この物語を描いていたときに政治的立場と作家的良心が
分裂せざるを得なかったソルジェニーツィンの悲惨と同じものである。
社会主義リアリズムで現実を描くほどに、スターリンの政治体制の矛盾が
主人公によって象徴されてしまうという危うさにこの作品には満ち満ちている。


政治に断罪された主人公を描いた『イワンデニーソヴィチの一日』ほうが、
ソルジェニーツィンの精神が自由闊達に表現されるのは、皮肉なことだ。


三単一の規則(一日の出来事、一つの場所、一つの筋)を遵守して描いていて
ソルジェニーツィンの古典的な手法へのこだわりが看取できる。


さらに、ロシアの女性たちや駅の光景の細かい描写などから
19世紀の自然主義作家にも相通ずるような
ソルジェニーツィンの観察眼の鋭さを感じとることができる。
作品構成の確かさと、描写の的確さに私は深く感動させられた。

ブルジョワのいなくなった国で、社会主義リアリズムを駆使すると
必然的に政治体制の批判に至ってしまうという矛盾を、
ソルジェニーツィンは心ならずも証明してしまった。




意味が人間を裏切るという哲学的問題を、この作品は孕んでいる。

ソルジェニーツィン短篇集 (岩波文庫)


sponsored link


posted by 信州読書会 宮澤 at 14:01| Comment(0) | ロシア文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。