信州読書会 書評と備忘録

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2013年06月15日

シルヴェストル・ボナールの罪 アナトール・フランス 岩波文庫


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★あらすじ

第一部『薪』


学士院会員で老究学者のシルヴェストル・ボナールは、
使用人の老婆テレ―ズと隠棲して暮らしている。
書斎の帝王であり、気難しく誇り高い老人である。趣味は稀覯書の蒐集。


ボナールは『黄金伝』の写本を見るために
老骨に鞭打ってシチリアへ旅に出るが、写本は競売に出されていた。
彼は競売に参加して、なけなしの遺産で写本を
落札しようとするが果たせず、たいそう落胆する。
しかし、その昔、クリスマスの前日に薪を恵んでやった貧乏一家の
夫人が、貴婦人となって現われて、その写本をボナールにプレゼントする。



第二部『ジャンヌ・アレクサンドル』


初恋相手のクレマンティーヌの孫娘ジャンヌ・アレクサンドルが
両親の破産で、女学校の掃除婦をしていることを知ったボナールは、
彼女を、寄宿舎から助け出して、後見人となる。
ジャンヌは、老学者の家に出入りしていた学徒と恋に落ち結婚する。
彼女の持参金を捻出するために、ボナールは大切にしていた蔵書を処分する。





★感想
老学者の日記という体裁の一人称小説。著者の大出世作。
名前だけ知っていて、読む機会のなかったアナトール・フランスだが、


今回初めて読んでみて、その衒学的なユーモアとシニシズムが
彼に傾倒した芥川龍之介、石川淳などに、いかに影響を与えているかがわかった。
ふたりとも、アナトール・フランスをパクり過ぎ!! である。



老学者ボナールが、その過剰な教養で、周囲に機知あふれる掣肘を加えながら
愚かな事件に巻き込まれてゆく姿が、なかなか哀切に描かれている。
それでいて心温まる結末の、素敵な作品で、読み終えてしんみりした。



第一部は1861年から1869年まで、第二部は1874年から1877までの日記である。
この間に1870年の普仏戦争とその敗戦、パリコミューンの時代があるのだが、
その間のことが、この作品ではポッカリと欠落している。





社会の大変化の中で、ボナールがそれらに言揚げせずに、淡々と過ごししたところに
彼のヒューマニストとしての、ひそかではあるが、強い意志が漲っている。
そこに、普仏戦争に取材したモーパッサンら自然主義者へのA・フランスの対抗意識が鮮明となる




ただ結末近くにこう述べられるのみである。


どんなに望んでいた変化でも、変化にはすべてそのうちにさびしさがある。
われわれの捨ててゆくものは、われわれの一部なのだ。
新しい生活に入るためには、古い生活に対して死ななければならぬ。


イーヴリン・ウォーの作品に似たような、古きよき時代
(具体的にはギリシア・ローマの時代)への追憶に溢れている。


訳者解説によると、話の筋自体は、他作品からの盗用が激しいらしいが、
文飾そのものは、極めて高度な着想から導き出されているので許したいとの事。




ボナールの伯父さんであったヴィクトル大尉のことが回想されるが、
その人が、ナポレオン時代の栄光を体現するユーモラスな大人物で、感動的。
幼い日のボナールが飾り窓の人形を欲しがって伯父さんから怒られるシーンは笑った。


この伯父さんは、「少年兵は退却のラッパを吹くな」などと会話が全部、軍隊用語で、
士官の威厳でもって、男らしさとはなにか!! を、幼い日のボナールの脳髄に叩きこむのである。


ボナールは、年とるごとにヴィクトル伯父さんの威厳が我がものになってゆくのを誇らしげに喜んでいる。
こういう伯父さんは、親戚にひとり欲しいものである。いなければ、自分がそういう伯父さんになるしかない!!

シルヴェストル・ボナールの罪 (岩波文庫)


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posted by 信州読書会 宮澤 at 13:46| Comment(0) | フランス文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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