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★あらすじ
ある博士の告白。
博士の幼年時代の同級生、ル・マンセルは、
家族みんなが神経症を患っている家庭の子だった。
彼の父は、鶏を飼うのに夢中であった。話し方も鶏だった。
子供時代の博士は、ル・マンセルの家へ遊びにいき真っ赤な卵をみる。
その卵は、ル・マンセルが生まれたときに鶏が産んだ変異質の卵だった。
ル・マンセルは、やはり神経症を患いながらも後年に大数学者となる。
久々に博士を遊びに訪ねてきて、先客があったため書斎で待っている間に
ル・マンセルは何気なく手にとった『ローマ皇帝列伝』の一節に啓示を受ける。
そこには、赤い卵は皇帝の緋服の前兆であると書かれていた。
ル・マンセルは、その一説により自らが皇帝だ、という妄想が爆発し、
エリゼ宮(フランスの王宮)に帰還しようとして番兵に阻まれ、何人か射殺する。
★感想
芥川龍之介が『続文芸的な、余りに文芸的な』のアナトール・フランスの項で
失敗作であるが、アナトール・フランスの文芸的体系の要であると喝破した作品。
伏線として、こどもがソフォクレスの詩を朗読したことで、自殺した女の話が語られている。
まあ、読んだ限りではトビー・フ―パー監督の『悪魔のいけにえ』と同じである。
あるいは、ゴーゴリの『狂人日記』を陰惨した感じである。
一家が全員、神経症という陰惨な人間の話を描いている。
芥川が、この作品に異常な関心を示したことに、救いがたい闇を感じさせる。
『赤い卵』を失敗作だと断ずる芥川のエクスキューズに
またしても、この作家の痛ましい神経過敏が看取できる。案外単純な人だ。
『赤い卵』みたいな作品を、晩年の芥川が断章として発表したことは失笑に値する。
アナトール・フランス小説集〈6〉バルタザール
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ラベル:アナトール・フランス