信州読書会 書評と備忘録

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2013年06月13日

光の雨 立松和平 新潮文庫

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★あらすじ



2030年に、60年前の事件で死刑判決を受けた80歳の老人、元赤軍兵士の玉井潔が、恩赦で出獄。
総括という名において行われた14名の同志殺人を、予備校生のカップル阿南満也と高取美奈に語り継ぐ。


★感想


連合赤軍による山岳ベースリンチ事件に取材した小説。
雑誌掲載当時に、『あさま山荘1972 』からの盗作を
著者である坂口弘から指摘され、社会問題となった。
連合赤軍メンバーの手記や裁判記録をまとめてノベライズしている。



予備校生のカップルだけが唯一、作者の純粋な創造である。
後世に語り継ぐという説教じみた設定で、かなり違和感をおぼえる。
玉井潔の母親が120歳にして、今だ存命で、母と息子の再会という設定のほうがいいと思った。


手記をきちんと読んでいない私としては、山岳ベースでの総括をめぐる人間模様の
ノベライズとしては、それなりに読み応えがあったというのが正直な感想である。






「お前を救うために殴っている」



「死を日常の風景とした時に、革命戦士の精神風土が形成される」


「暴力とは死である。敵の死であり、自分の死である。
この死を乗り越えなければ、革命戦士にはなれない。」


以上のような論理で、同志への総括は正当化され、
殲滅戦を戦い抜く革命戦士としての完全なる自己変革が全員に要求される。


そして、自己変革への意欲が低いものは、権力への敗北を意識した
「敗北主義者」とレッテルされ、自己批判を求められる。



さらに、自己批判は自分では徹底できないので、同志による援助として総括が行われる。
総括が徹底されると、死ぬが、死は敗北として位置付けられる。


総括というのは、革命戦士になるための同志的援助であるはずなのだが、
されたほうは、革命戦士になるどころか、確実に死ぬのである。



これは論理矛盾でしかない。悪循環である。
実際は、私怨のこもった処刑でしかない。
論理を装っているので、人間的な罪悪感を麻痺させているだけである。



一連の総括は、倉重が統一党結成後の主導権争いを
優位に進めるための方便だったと、玉井潔は最終的に気がつく。
それは、玉井と結婚していた上杉が、倉重と結婚した事実によって証明された。


この筋の運び方は、ノベライズとしてオーソドックスだし、
手記からのまるまるの翻案であるとはいえども、プロットがあるだけ小説的といえる。
このあたりの事情を中央委員の倉重と上杉、玉井の感情的対立を軸にして展開したことは、評価したい。




問題なのは、立松和平自身の依って立つべき足場が、作品内に一つもないことだ。
玉井潔に仮託して、事件を感傷的に弄んだという印象は拭えない。



連合赤軍事件へのリアクションとして書かれた小説としては
大江健三郎の『洪水はわが魂に及び 』や円地文子の『食卓のない家 』があるが、
それらに比べると、『光の雨』の作品世界の視野狭窄ぶりは、端的にやばい。
結果的に、全共闘世代の感傷から一歩も出ていない。そこは、盗作以上に致命的だ。



個人的には、柄谷行人の1973年発表の『マクベス論』(『意味という病 』所収)が、
一連の連合赤軍事件を、シェイクスピアの悲劇『マクベス』になぞらえて論じたことで
最も手の込んだ創造性を発揮した労作だと思っている。



連合赤軍事件の意味を、自意識や感傷から切り離して読みとるために、
『マクベス』を導入した点に、柄谷行人の苦心の跡を感じられる。
立松和平には欠如した作家的な誠実さが、そこに現われているように思う。




35年前の2月28日のあさま山荘突入が決定された。
翌日の天候が憂慮され、一日延期するべきという意見が出たらしい。
しかし、その年は、うるう年で一日延期すると突入日が2月29日となり、
殉職者が出た場合、命日が四年に一度しかこないということで、
1972年2月28日が突入日となったそうだ。



光の雨 (新潮文庫)


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posted by 信州読書会 宮澤 at 12:47| Comment(0) | 連合赤軍関係 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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