信州読書会 書評と備忘録

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2013年06月13日

今夜、すべてのバーで 中島らも 講談社文庫


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★あらすじ
主人公の小島容が、アルコール依存症で入院し、更生する顛末を描いた小説。



★感想
非常に面白かった。面白さの質としては見沢知廉の『囚人狂時代』に似ている。
要するに、ルポタージュとしての面白さであって、小説としての面白さではない。
題名からすると、バーで酒を飲むための薀蓄本に見える。完全に裏切られた。




・主人公について

親友で事故死した天童寺という人物が出てくるが、彼は小島容の別人格である。
アル中患者の治療過程は、小島を主人公にして、
家庭崩壊や落伍人生は、天童寺を主人公にして描いている。
要するに主人公がふたりいるのだ。
なので、筋としてはまとまりに欠けた印象を受ける。





だが、脇役は魅力的で、患者をぶっきらぼうに突き放す内科医、赤河の態度や、
アル中男性患者の身勝手なナルシシズムを卑怯だ!! と糾弾する
天童寺の妹、さやかの存在には、説得力があった。



アル中患者に関する情報が充実していてルポタージュとしての読み応えがある。
大量の飲酒の引き金となるアル中患者の精神的葛藤や性格傾向の分析、
胃や肝臓などの身体的変調、具体的な治療方法など、かなり興味深かった。



個人的に一番ショックだったのはこの本を読んで、
あの人も、あの人も、あの人も、今考えると、アル中だった!! 
と思い出したことだ。なんと、絶交した人ばかり!!
アル中に理解があれば、もう少し彼らに寛大になれたかもしれない。





その頃のおれには、貧しいがゆえのプライドのようなものがあった。
自分は“特別な人間だ”という意識。
世に容れられず、また力の試し方を知らないためによけいに狂おしくつのってゆく
自分の才能への過信、不安、その両方が胸の奥で黒く渦巻いていた



以上のような焦燥感を、主人公の小島は、酒で紛らわせているうちにアル中になった。
こういう焦燥感や挫折感は若いければ、誰でも少なからず感じることだと思うが、
繊細で、才能がある人ほど、自分への不安や鬱屈を酒でごまかすようになる。




そして、罪悪感とともに、他人への攻撃性を育み、周囲の人の信頼感を一挙に失う暴挙に出る。
自己嫌悪から忘却へ押流すために酒を飲み、酔っ払うことで仮死状態になり自分から逃避する。
果てしない感情的悪循環で、ますますアルコールは体内を巡り、自らを廃人にまで追い込む。




こういうふうにして一番大切な人々を傷つけてしまった人がいたいた!! 結構いた!!
私自身、多いに迷惑こうむって絶交した人もいるし、
再三にわたって失態を犯して、皆を裏切り、目の前から消えた人もいる。
その人たちのことを思うと、未だに嫌悪感もあるが、病気と考えれば、同情で胸が苦しくなる。



中島らもは、初めて読んだ。面白かったのだけれども、
読んでいて吉田健一や野坂昭如や阿佐田哲也などを思い出すところがあった。


巨大アメフラシが香腺液を分泌するという話は、吉田健一の『酒宴』を思い出す。
すごい器用な作家だと思うが、文体やユーモアセンスに強い既視感をおぼえる。


著者亡き現在では、救いのない作品になってしまった。読者にとっても残酷な作品。
この小説には、更生は不可能という絶望感が漂ってしまっている。痛ましいことに。


今夜、すベてのバーで (講談社文庫)


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posted by 信州読書会 宮澤 at 12:46| Comment(0) | 日本文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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