信州読書会 書評と備忘録

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2013年06月13日

慈みの女神たち アイスキュロス ギリシア悲劇〈1〉ちくま文庫所収


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★あらすじ

アイギストスと不倫し、夫であるアガメムノーンを暗殺したクリュタイメストラは、
息子であるオレステスにアイギストスと共に仇討ちされ殺される。




実母殺しから狂気に陥り、復讐の女神エリニュスに追われたオレステスは、
アレスの丘の法廷で、アテナを裁判長とした裁判を受ける。


12人の市民の評決は半分に割れるが、アテナが無罪に評を投じたため
コロスを形成する復讐の女神たちの訴えは退けられ、オレステスは免罪される。



復讐の女神たちは、裁判の結果に納得いかず、ヒステリーで怒り狂うが、
アテナが彼女たちの位を保証したため、慈みの女神となって落ち着く。


★感想
『アガメムノーン』『コエーポロイ』に続くオレステス三部作の最終章である。


アポロンから授かった神託の内容は「父の仇を討て」であったが、
オレステスは拡大解釈して「母を殺せ」と認識する。


「母を殺し」はやりすぎじゃないかという復讐の女神たちが原告となった
アポロン神託に対する解釈をめぐっての民事裁判の経過を描いた悲劇。


争点は、仇討ちであれば尊属殺人(母殺し)は許されるのかというヘビーなものである。



証人として出廷したアポロンは、仇討ちの正義の重要性を訴えオレステスを擁護する。
さらに、そもそも子供は父のものであって、母は子供を世話するだけの存在だと主張。
現代では、こんな失言したら厚生労働大臣も辞任どころか、議員辞職まで追いつめられるような主張である。


それに対して、復讐の女神たちは、ゴウゴウと非難を浴びせる。


人間の見張りを勤めている復讐の女神たちの見解は、
尊属殺人が許されるなら、自分達の存在価値が否定されたも同然だ、とご立腹。


しかし、女神アテナは
「よろずにつけて私は男性の味方です、まあ、結婚相手はごめんだけれども。」(笑)
とのたまって、オレステスは無罪を宣言。完全な出来レースである。





こんな茶番が法廷で許されるのか!! 女性が軽んじられるなら
国中のあらゆる人間、動物、植物を不妊症にする!! と復讐の女神たちは、わめいて暴れる。


そこで、アテナがしかるべき地位を復讐の女神たちに提示すると、
彼女たちは、現金なことに、てのひらをかえたかのように喜びだす。



というわけで、オレステス三部作は、最後の最後でハッピーエンドである。
「慈みの女神たち」は、半ば喜劇の領域に踏み込んでいる。
復讐の女神たちが、懐柔され、利権の恩恵に与かった人権団体にしか見えない。


古代ギリシア女性の社会的身分の低さが反映された作品である。
まあ、現在の人権意識に照らし合わせて糾弾してもたいして意味はあるまい。



それよりも法廷劇を悲劇にしようとしたことに苦しさを感じる。そもそも悲劇じゃないし。
オレステス三部作にはいっているからまだいいが、
単独の悲劇として評価すれば、アイスキュロスの中では最も駄作ではないか?



ギリシア悲劇〈1〉アイスキュロス (ちくま文庫)



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posted by 信州読書会 宮澤 at 12:39| Comment(0) | ギリシア古典 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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