母親から虐待を受けて育ったトビー・ダミットは、
粗暴かつ陰険で、どうしようもない青年になる。
「悪魔にこの首を賭けてもいいが」という悪態が口癖であるが、
それは彼が、首以外に何も賭けるものがないほど貧乏だからである。
ある日、語り手たる私と散歩に出かけ、鉄棒がアーチとして並ぶ橋を渡る。
橋の中ほどには、回転木戸があり、ダミットは風狂から、
この木戸を、ジャンプしてその真上で両足をバッととじる脚芸をやるといいだす。
そして「悪魔に首を賭けてもいいが」できると断言する。
木戸の向こうには、小柄な黒ずくめの紳士がおり、ダミットの悪ふざけを
咎めるように咳払いをしている。
ダミットは、この奇妙な紳士とふたりきりになって説き伏せ、
かくして、回転木戸を飛び越える。上首尾に飛び越え、脚芸もこなすが、
そのまま木戸の手前に仰向けに倒れこんでしまう。
その瞬間、小柄な紳士は、前掛けに何かを包んで走り去る。
哀れなダミットは、首なしの死体となって倒れていた。
ジャンプしたときに橋のアーチに首をかけてしまったのだった。
ダミットの首は行方不明である。
★感想
この怪奇小説に教訓を読み取るなと、ポーは冒頭で述べている。
なんだけれども、カーライルの超絶思想を、執拗に皮肉ることで
ぺダンティックにしている以上は、なんらかの教訓を読み取りたくなる。
しかし、私はカーライルの著作についても、彼の超絶思想についても
何も知らないし、内村鑑三の著作を通じて辛うじてカーライルが
どういう人物か知るくらいなので、因果を語ることはできない。
とりあえず、フェリーニらのオムニバス映画『世にも怪奇な物語』の
第3話の『悪魔の首飾り』の原案となったのがこの短編怪奇小説である。
トビー・ダミットは、テレンス・スタンプが演じている。
ポオ小説全集 3 (創元推理文庫 522-3)
sponsored link