信州読書会 書評と備忘録

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2013年06月13日

娼婦の部屋・不意の出来事 吉行淳之介 新潮文庫




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★「寝台の舟」あらすじ
女学校の教師である主人公は、夜の街で女に声をかけられ登楼する。
女だと思っていたのは、男だった。かつて華々しい名声を持った男娼だった。
関係は無理で、朝になる。男娼は、身の上話をするが、予想できる範囲から少しも
はみ出すことはない退屈な話だった。
しかし、彼の異様な優しさに感銘を受け、三回訪ねるが、行くのを止める。
女学校の職も辞す。
退職金でプレゼントを買って男娼の部屋を訪ねる空想にふける。
しかし、マザーグースを読みながら布団で寝てしまう。


★感想
男娼を買ったのは吉行の実体験だそうである。
正直、性の探求者を演じる吉行淳之介の律儀さには、敬意を感じる。
ただ、その律儀さがいったい何によるものなのかわからない。
娼婦だけでなく、男娼でさえも自分と同じ目線で捉えようとする姿勢には
自己処罰という言葉がよく似合う。この自己処罰が多くの男性読者の共感を得る。



体験したことの生々しさを、私小説の枠組みの中で
詩的に昇華した短編は、作家としての迫力を感じさせる。
セックスによってあらゆる人間が同一平面に並ぶ瞬間から人間の普遍性を抽象している。



★「食卓の光景」あらすじ
精神病院に夫婦で入院している友人を見舞い、主人公は焼飯を食べたことを思い出す。
そこから、高級中華料理店で、金のない学生が迷い込んで、ソバを注文する。
高級店で場違いな気持ちで恥じ入っている学生を主人公は観察している。


そして、無事に勘定を済ませて出て行くことを応援している。
しかし、空想の中で、その学生が、批判した目つきが気に喰わないと
主人公に向かって、ビール瓶をふりあげてくるので、主人公は学生に説教する。


★感想
吉行淳之介の食卓というのはさみしい。ものを食っている喜びが全然ない。
また、出てくる食べ物が、旨そうに描写されていると感じたこともない。
小説家の資質としては、かなりまずいと思う。長編が下手なのはここに原因がある。


第三の新人はおおよそ食事風景が貧相である。食事に恥の意識がある。
この学生は、食事を楽しめない吉行淳之介の分身である。断食芸人である。



冒頭に、島尾敏雄と安岡章太郎がイニシャルで登場するが、
このふたりが出てこないと、私小説的な担保がなくなり、全く味気ない作品になる。
穿った見方をすれば、思い上がった意識から成り立っている短編小説ともいえる。


こういう思い上がりを、一人称の中にさりげなく落とし込む手腕は悪質だが、
自意識を極限まで押さえ込む操作が施されているので、あまり気にならない。
自意識の操作自体は異様に巧い。異様。ホントに異様。

娼婦の部屋・不意の出来事 (新潮文庫)



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ラベル: 吉行淳之介
posted by 信州読書会 宮澤 at 12:26| Comment(0) | 日本文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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