信州読書会 書評と備忘録

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2013年06月13日

居酒屋 ゾラ 新潮文庫 その二



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★グージェの倫理観について
ジェルヴェーズが洗濯屋のパートで稼いだお金は
屋根から落ちたクーポーの治療代で消える。
ついでに、ジェルヴェーズの悲願だった洗濯屋の開業は困難となる。
そのとき、隣人の鍛冶屋グージェが、白馬の騎士よろしく500フラン用立てた。



子供を三人育てながら、亭主を看病し、パートも家事も手を抜かないジェルヴェーズに、
口数が少なく、仕事熱心で、母親想い(ややマザコンぎみ)なグージェは、心に秘めた恋心を抱いていた。
彼は、ジェルヴェーズが、困難に陥るたびにそっと助け舟をだすのだった。人妻へのかなわぬ恋。
その恋心も実はみんなにバレていて、囃したてられると真っ赤になるうぶな青年である。


ジェルヴェーズの目の前でグージェはベックサレとボルト造りの
戦いを繰り広げ、恋の力でグージェが圧倒的な勝利を収めたこともあった。


ジェルヴェーズとグージェの水のように淡い関係は、
お互いへの尊敬と信頼から成り立つロマンスであり、また、経済的余裕の象徴だった。


酒も賭博も女も一切断って、仕事一筋。母親とつつましく暮らすストイックな職人グージェは、
ランチエの登場以降、凄まじい勢いで落ちぶれて、
泥酔と怠惰と放埓で自分を見失いはじめたジェルヴェーズの密かな心の支えである。




「鍛冶屋にたいする愛情は、彼女の誠実さの最後のかけらのように、心の中に残っていた。」


とジェルヴェーズはグージェとの信頼関係を宝のように大切にしていた。
しかし、ジェルヴェーズは旦那と元旦那のふたりの男と一緒に暮らして日替わりで肉体関係をもつ。
その不潔な行為を人伝に聞き、純情青年グージェはかなりのショックを受ける。


それでも、彼女を見捨てないグージェは、クーポーの母親が死んで、
ジェルヴェーズが葬式代も用立てられない時、さらに60フランを、彼女に貸す。
もう、これっきりだと断って。



これっきり、これっきりと思っていたら、
しばらくして、夜道で「お兄さんマッサージいかがですか?」とグージェの袖をひいたのが、
売春婦までなりさがり、吹雪の中を空腹でさまようジェルヴェーズであった。運命の皮肉。



いまどき、こんな露悪趣味の典型のような展開は野島伸司脚本のドラマでも
あ〜り〜え〜な〜い。 しかしそれはそれとして、続く展開は、涙なしに読めない。


グージェは黙って売春婦になったジェルヴェーズを自分の家まで連れてきて、とりあえず飯を食わせる。


そして、がつがつパンを喰らう、老けて太って醜くなったジェルヴェーズを見やる。彼女は泣いている。
かつて、この女を盗み見たくて、電柱の陰で隠れていたことをグージェは思い出す。


食べ終えて、一瞬の気まずい沈黙ののちに、最初のボタンに手をかける売春婦ジェルヴェーズ。
それを制し、グージェは、「ぼくらの友情は全部ここにふくまれている。そうでしょう?」と言って
ジェルヴェーズの髪の房に深い敬意を込めてキスをして、ベッドに倒れこみ号泣。


ジェルヴェーズは、泣き叫ぶグージェを残して部屋から立ち去る。
一般的にいえば、みじめな男であろう。据え膳を断ったのである。


彼女を抱いたら、グージェの倫理観も崩壊するのだから当たり前ともいえるが、
まあ、そんな倫理観に、現在どれほどの価値を見出せるかもわからない。


しかし男の鑑ではないか? こういう誠実さをバカにしていいいいものだろうか?
でもどうだろうか、ここで敢えてジェルヴェーズを抱くのが優しさなんだろうか?わからん。



グージェの「誠実さの最後のかけら」をも裏切って、ジェルヴェーズは人間性を崩壊させた。
グージェが彼女を抱いても、拒否しても、彼女の運命はかわらないだろう。
だが、グージェの大事にしている倫理観は、これを積極的に賞揚することもできない。
実際に、ゾラもそこまで説教臭く、グージェという人物を造形しているわけではない。


逆説的に倫理観を描き出すのに、ゾラはジェルヴェーズを、
徹底的に筆でいたぶって嬲り殺し、断罪させている。


しかし、グージェの倫理観は、正解と出たわけでもない。ここが微妙だ。
単に、グージェが童貞で、勇気がなかった、ちゃんちゃん、で済まされる話だろうか。
もっと大切な何かがあって、それを守ったことで彼が、少しでもましな人生を送れたのだろうか?
ひとりの男が、手前勝手な倫理観を積極的に守ることの困難と虚しさ。重く考えさせられた。

居酒屋 (新潮文庫 (ソ-1-3))




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ラベル:ゾラ
posted by 信州読書会 宮澤 at 12:24| Comment(0) | フランス文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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