信州読書会 書評と備忘録

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2013年06月13日

悪童日記 アゴタ・クリストフ ハヤカワepi文庫

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★あらすじ
激しい戦火の中、双子の少年は、小さな町に住む
おばあちゃんの元へと疎開する。


戦争の過酷さからあらわになる人間性の喪失に
双子の少年は立ち向かってゆく。その結果、いびつに成長する。
登場人物はみんな犬死する。
双子の少年は祖国と亡命で離れ離れになる。



★感想
ハンガリー人、アゴタ・クリストフが25歳からフランス語を習得し、苦心して書き上げ、
スイユというフランスの老舗文芸出版社にいきなり送りつけ出版させた小説。
スイユという出版社は、初めて知ったが、たぶん河出書房みたいなとこだと思う。
この『悪童日記』は、河出の海外文庫のラインナップに入ったほうがしっくりくる。


河出文庫の得意な「猟奇」と「性的倒錯」がいっぱい詰まっている。
双子の少年「ぼくら」が一人称で書いた日記風の断章からなる小説である。
「一人称、日記風」というだけでも、実は、個人的に読む気が失せる。実際、読み飛ばした。


具体的な地名も、人名もない。すべての固有名詞が排除されている。
すべて寓話である。筆者のハンガリー出身という事実だけが担保になった寓話だ。
批判の余地をあらかじめ消し去っている点でなかなか手の込んだ仕掛けになっている。


この寓話から、ハンガリーの過酷な歴史を読みとれということなのか、
それとも、エログロ・ファンタジーとて愉快に読めというのか。よくわからない。
奥歯にものの挟まったようなやけに、もったいぶった小説である。
亡命作家の厳しい渡世だからといって、こういうやり方を許していいのだろうか。


『森繁自伝』なんかは満州侵攻後のロシア人の蛮行をしっかり描いているが、
森繁自身のロシア人に対する評価は、ものすごいインテリと群狼が共存している
国民であるというまっとうな意見であった。ロシア人のみながみな狼藉ではないらしい。



歴史を寓話にして子供の一人称で語らせる手法は、悪辣だが、まだ許そう。
しかし、まともな人間が全く出てこないのは、筆者の想像力と洞察力の欠如である。
リアリズムで描けば、もっと掘り下げるべきテーマがたくさんあるだろうに。
双子の両親の立場から書けば、大人の強いられた複雑な現実が明確になるはずだ。


この両親も酔狂で、収容所に入ったり、亡命したりしたわけではあるまいに。
低脳を自ら証明するかのような、エゴイスティックな両親の姿が描かれている。


大人の視点のリアリズムから逃げきって、子供の寓話として書かれている。
そのような意識的退嬰に敢えて身をやつす、アゴタ・クリストフの態度は腑に落ちない。


対独協力やソ連への密告などの暗い過去でもあるんじゃないかと、私は邪推せざるを得ない。
親の世代をこうも否定的に描き、ヒステリックに弾劾するからには、
なにか一筋ならない理由でもあるんだろう。そう感じた。


悪童日記 (ハヤカワepi文庫)




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posted by 信州読書会 宮澤 at 12:21| Comment(0) | フランス文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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