信州読書会 書評と備忘録

世界文学・純文学・ノンフィクションの書評と映画の感想です。長野市では毎週土曜日に読書会を行っています。 スカイプで読書会を行っています。詳しくはこちら → 『信州読書会』 
Facebookページ
『信州読書会』 
YouTubeチャンネル
YouTubeチャンネル「信州読書会」
*メールアドレス
名前

 

2013年06月13日

脂肪の塊・テリエ館 モーパッサン 新潮文庫


sponsored link







★『脂肪の塊』あらすじ
普仏戦争においてプロシアに占領されたフランスのルーアンから
まだ比較的商売上の自由がきく港町ル・アーブルへ移動するため
様々な階級からなる10人の一行が六頭立ての馬車に乗って出発する。



詐欺師的ワイン問屋のロワゾー夫妻、県会議員で紡績工場主のカレー・ラマドン夫妻
王党派の大貴族ユベール・ド・プレヴェル夫妻、2人の尼僧、共和党派のコルニュデ、
そして、『脂肪の塊』と名高い売春婦ブール・ド・シュイフが旅程を共にする。
ブルジョワどもは皆、侮蔑と嫌悪の混じったの一瞥をこの売春婦に投げかける。
雪が降りしきり馬車は進まない、プロシア兵を厭って街道の旅籠屋は店を閉めている。


みんなやがて腹ペコになる。ブールだけが、豪華で多量の弁当を用意していたので食べ出す。
ブルジョワたちは我慢できず、さっきまでの軽蔑を引っ込めて彼女の御相伴に与かる。



予定を大幅に遅れて一泊目の予定地トートに一行は到着するが、
プロシア軍の一隊に宿屋が接収されている。プロシア士官は、彼らの馬車を足止めにする。



士官はかねてから高名な売春婦ブールの到着を聞きつけて
同衾を迫るが、彼女が頑なに拒むため出発を許さないのである。



ブールの恩義を感じているブルジョワたちは士官の破廉恥な要求に憤るが、
宿屋に釘づけにされるうちに、状況が耐えがたくなり
売春婦が士官と寝て、出発のお膳立てをしてくれることを望みはじめる。
「あの女の商売がそういう商売である以上やむをえない」と勝手なこと言い出す始末。



かくして、ブルジョワどもは暴君を手なずけた女たちの故事を引き合いに出して
ブールに婉曲的に説得をかけ、自己犠牲を強いるが、彼女は沈黙で答える。


しかし、結局哀れなブールはその豊満すぎる肉体で人身御供となり、士官は出発を許す。
ブルジョワどもは不謹慎にも解放の喜びから宴会を催し、シャンペンを空ける。
出発の段になって馬車に乗り込んだブールに、一同の態度は豹変。
みんなでもって、美徳の怒りの視線を投げつける。


しばらくして昼食になるが今度はみんな弁当を用意している。
ブールだけが用意をしていない。ブルジョワどもは恩も忘れて彼女に食物を譲らない。
ブールは激怒するが声にならない。やがて彼女はすすり泣きを始める。
男が気まぐれで口笛に吹いた『マルセイエーズ』によって、祖国の自由が喚起され
その自由の代償を皆が思いいたり、それぞれがかすかな良心の呵責をおぼえる。終り。



★感想
ブルジョワ社会のいやらしい利己主義と自己欺瞞をこれでもかと暴き立てたる稠密な筆遣い。
自然主義のラディカルで凶暴な社会批判が十全に発揮された金字塔的作品である。



馬車に乗るブルジョワ9人が過不足なく役割を果たし、失礼行き届いた愚劣な言動で
『脂肪の塊』ことブールを追いつめていき、彼女を悲劇の娼婦に仕立て上げる。


アリストテレスは『詩学』のなかで悲劇の「あわれみを誘うもの」を分類し順位をつけた。



@知らずに実行し、実行したあとで取り返しのつかないことを認知すること。 『オイディプス王』
A自分が何をするか知り、気づいていながら行為すること。 『メーデイア』



と代表作品を例にあげて、悲劇の文学性を順位づけしている。



『脂肪の塊』は、もちろんAの系統である。
誇り高く、タフで、やさしき娼婦であるブールは、状況打開のために、
いやいやながら売春して、皆から軽蔑され、売春婦は結局、売春婦でしかないという
身もフタもない境遇の事実をやっぱり思い知らされて、悲しみのあまり途方に暮れる。
結果のわかっているブールの悲惨さは、確かに読者にあわれみの念を起こさせる。



モーパッサンの師であるフローベールが死の直前に『脂肪の塊』を激賞した。
ジードによる短編文学史上の傑作との評価を初めとして、フランスの作家の多くが賛嘆する短編。



一方、モーパッサンの諸作を、カミュは「再読に値しない」、クローデルは「関心がない」と述べ、
ジャン・ジオノに至っては、「私の書架には一冊のモーパッサンもない」と切り捨てたそうな。
戦後派作家が読めば、ブルジョワの現状肯定にしかたどりつかない点で、
自然主義の限界をしるしたウエルメイドな短編でしかないという評価も充分にありえる。



脂肪の塊・テリエ館 (新潮文庫)




sponsored link


posted by 信州読書会 宮澤 at 12:11| Comment(0) | フランス文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。