信州読書会 書評と備忘録

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2013年06月13日

殉教 三島由紀夫 新潮文庫


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三島 由紀夫 殉教 所収 『獅子』


★『獅子』あらすじ
あらすじは、ほぼエウリピデスの『メーデイア』を踏襲しているが、
人物と舞台設定は戦後間もない日本の状況に則してアレンジされている。


満州で事業を営んでいた川崎源蔵の娘、繁子は、
見物がてら出かけた奉天で寿雄と養子縁組し、一人息子親雄をもうける。


敗戦後、満州に侵攻したロシア人の残虐行為を目の当たりにしながら、
繁子と寿雄の一家は内地に引き揚げる。川崎源蔵は突然死する。



引き揚げの前に、繁子は特務機関の陸軍中尉であった腹違いの兄を、
憎しみからロシア側に密告し、兄はシベリアに連れて行かれる。
(この挿話はメーデイアの弟殺しを踏まえている。)



戦後と寿雄は繁子の父の友人である実業家、菊池圭輔のもとで働く。
川崎邸は財産税のために土地ぐるみで処分せざるをえなくなるが
同じく菊地邸はGHQに接収されるので、菊池は川崎邸を買い取ろうとする。


寿雄は、繁子を捨てて、菊池の娘である恒子と再婚し、菊池の事業を継ぎ
さらには川崎邸を自分のものにするという将来の打算と野望に目覚める。
寿雄の企みを菊池から聴かされて、四者による離婚調停の話し合いを強いられた繁子は、
毒入りのジョニーウォーカーをその会合に差し入れて菊池と恒子の毒殺を計画。



毒殺後に海外に逃亡するために、母親の留学時代の知り合いである
アイルランド系アメリカ人、アイゲウス少佐に事情を打ち明け身の上を確保する。


体調不良を理由に会合を欠席して、菊池と恒子の毒殺は実行される。
繁子は息子の親雄を寿雄の愛の慰謝として残すことを拒み、自らの手で始末する。


寿雄が家に戻ってきて、取り乱した繁子に体面する。
こんな事態になってようやく、お互いを心から愛し合っていたことを確認する。




★感想
三島由紀夫23歳の時の作品。早熟である。痛ましいほどに。
《エウリピデスの戯曲『メディア』に拠る》とわざわざ断っただけあって
戯曲を小説に翻案するという試みは、かなり図式的に実行されている。



黙ってエウリピデスから筋をパクリ、短編をでっち上げることも出来たと思うが、
そういうセコサを潔しとしない三島の作家的良心に、尊敬の念ひとかたならない。
しらっとした顔で海外文学から万引きのようにパクりつづけることを止めない
大江健三郎や村上春樹とは格が違う、懐が深い。いや、単に才覚を勝ち誇っているだけかもしれない。



『獅子』という題名は、イアーソーンがメーデイアに吐いた「お前は獅子だ!!」というセリフによる。
メーディアの「一度お産をするなら三度戦に出ることも厭いません」というセリフも
きちんとそのまま流用されている。



子殺しの理由についてだが、
エウリピデスの原作では、子が敵の手にかかって死ぬのをメーデイアが厭ったためになっている。
三島はそれを、息子の親雄が、夫の愛の慰謝になるのを厭ったためとなっている。
それだったら外国へ一緒に連れて言ってもよさそうなものである。
「お母さまもすぐあとから死ぬ」といいながら、繁子が死ぬとこまで書かずに終わる。



子殺しの必然性は三島に至っていっそう希薄になるので、この短編はつまらない。
まあ、毒入りのジョニーウォーカーを届けたのが息子でないのだからこうなるのは仕方ない。




アイゲウス少佐が出てきたところで失笑を禁じえなかった。
ここだけ原作と名前が一緒だ。かなり無理矢理である。
三島にこそ、『メーデイア』の続編まで書く想像力を期待したくなるが残念である。


あやつり人形のような登場人物ばかりである。過度に心理的な人形劇を観させられた気持ちだ。
繁子もメーデイアに比べると感情の起伏に乏しく、ただ陰気な女性である。血が通っていない。



三島小説特有の気の利いた逆説的なセリフ、酷薄な客観的描写、及び饒舌な比喩によって
エウリピデスには、まだ存在したセリフの詩的な余韻が、すべて踏み倒しにされている。


設定の律儀な現代的アレンジには感嘆するが、原作より興趣に欠けるのが困りもの。
結末が尻切れトンボ。原作の筋まで手を入れないとこの作品は悲劇として息吹かない。
エウリピデスの悲劇が三島由紀夫一流の耽美主義で処理されただけの作品になってしまった。

殉教 (新潮文庫)


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ラベル:三島由紀夫
posted by 信州読書会 宮澤 at 12:10| Comment(0) | 日本文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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