信州読書会 書評と備忘録

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2013年06月13日

愛と笑いの夜 ヘンリー・ミラー 角川文庫


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★『頭蓋骨が洗濯版のアル中退役軍人』あらすじ
主人公の私とその友人ラットナーは、酒場の帰り道でアル中の退役軍人にからまれ、
しぶしぶ、彼と一緒にもう一軒ハシゴすることになる。


彼から、大げさな身振りで虚栄心に満ちた自己語りをきかされる。
本心では同情を求めながらも、同情を示されると頑なに拒否し
悦に入って不幸話を繰り返す彼を、私は最後に冷たく突き放す。


ホテルに戻ってから、私は友人に、彼の語った話をあざやかに分析してみせる。
ほとんど全ての話を作り話だと断定し、彼のような救いのない落伍者に対する所見を述べる。


★感想
ヘンリー・ミラーの作品の中で最も私が好きな短編集だ。。
だらだらとした彼の長編に比べて、短編は思いのほか切れ味があるで意外な感に打たる。



この作品は、ミラーが人生の敗北者に対して投げかけたひとつの啓示である。
勤め人時代に同じような敗北者たちを大勢救おうとして果たせず、傷つき
また、自らも同じような敗北者にはからずもなってしまったことのあるミラー。
その境遇から、自力で更正した体験から導き出した、力強い論理を展開している。


「この世には、なにも問わず惜しみなく与え、許す人たちがいるし、また、なんだかんだと勝手な理屈を並べ立てて、人を助けようとしない手合いもいる。そういった手合いは、親切で寛容な人間には永久になれない。両者の隔たりは途方もなく大きい。一方は、太っ腹で、辛抱強く広い心の持ち主で、慈悲深く生まれついている。もう一方は、宗教や教育によったって、そんなふうにはなれやしない。西暦五六九二七年になっても、この二階級の人間はまだ残っているだろう。そして、この両者のあいだには、常に陰の世界、ただ虚しくのたうちまわり、世界が眠っているときに、通りを苦痛であえぎながら歩いている亡者どもの世界が存在する……」


とミラーは述べる。






ミラーは、この作品で亡者たちの敵でも味方でもなく、そこから教訓を引き出すでもなく
ただ、亡者=落伍者が夜の街にさまよっている現実にスポットライトを当てたに過ぎない。





訳者の吉行淳之介は、あるエッセイで
「人に善意を施すときは、二倍の悪意でお返しされても恨まないと
誓ってから行うこと」という内容のことを述べていた。


凡人はなかなかそんな境地まで達観できないものだ…。



他人に対して非情になるのは簡単なことですが、努めて寛容になるのはかなり大変なことである。
人は生きていく上で、この作品に登場するアル中の退役軍人のような
人生の落伍者に出会うことは避けられません。厄介に巻き込まれることもある。
そういうとき自分はどうするのか? 彼、または彼女にどんな態度で臨むのか?
いろいろなことを考えさせられる作品です。洞察力に満ちた傑作。お薦め。


愛と笑いの夜 (福武文庫)


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posted by 信州読書会 宮澤 at 12:03| Comment(0) | アメリカ文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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