信州読書会 書評と備忘録

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2013年06月13日

質屋の女房 安岡章太郎 新潮文庫


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★『ガラスの靴』あらすじ
戦後間もない頃、猟銃店の夜番としてアルバイトする主人公の僕は、
散弾銃の弾丸の配達先で20歳の少女、悦子と出会い恋愛関係になる。




悦子はGHQに接収された洋風邸宅でメイドをしていて、
やや頭にワンダーランドが入っているフシギちゃんである。
家主のグレイゴー中佐夫妻は夏休みで留守にしており、
僕と悦子は邸宅で昼間、豊富な食糧や高価な調度品に囲まれて、
たわいもないままごとにふけり、御伽噺のような生活を過ごす。
でも、男女の一線を越えない。


1ヶ月がすぎ、そろそろ夏も終わる頃、備蓄された食糧もつき
僕は悦子との御伽噺が終わる予感と恋愛感情への葛藤で悩み始める。


グラスゴー中佐が予定を早めて休暇から戻ったことで、
悦子と邸宅で合うことが不可能になる。恋愛は危機を迎える



その後、悦子が猟銃店に訪ねてくるが、
モーションをかけても拒否されたので僕は憤り、やがて彼女に幻滅する。
彼女に興味を失った僕は、眠気に襲われる。そして奇妙な電話を受け取る。


★感想
安岡章太郎30歳のデビュー作。北原武夫に見出された作品。
デビュー作の創作経緯は以前紹介した『僕の昭和史 』に詳しいのでそちらを。



村上春樹の書いた『若い読者のための短編小説案内 』に
第三の新人の小説が取り上げられており、この『ガラスの靴』も解説されています。


実作者の体験を踏まえて書かれ、やや図式的ですが、自分の創作の秘訣を明かしながらの
懇切丁寧ですばらしい解説なので、ご興味のある方は一読を。


安岡章太郎の全作品を参照しながら、そのデビュー作の成立過程を分析しています。
苦手だった村上春樹を、ずいぶん見直しました。解説の文章もすばらしいです。


短編に関してかなりの見巧者です。恐れ入りました。
これ以上の書評は私には書けません。謙虚な気持ちにさせられました。



なので、村上春樹の読んだ安岡章太郎についてちょっとだけ感想を。


村上氏の指摘どおり、この作品は青春の終りを「ファンタジー」として昇華させた作品です。
そして「ファンタジー」に「生身の現実」を引き込み、解体させて成立した作品を
『海辺の光景 』と位置付けて、最大限の賛辞を捧げています。
この辺の読みはほとんど江藤淳の『成熟と喪失 』と同じなので興趣にかけますが・・・



(余談ですが、りリー・フランキーの『東京タワー 』の後半は
『海辺の光景』の100歩手前くらいという感じです。すばらしい作品ですけど。)


重要なのは、その後、小説から「ファンタジー」を捨てざるをえなくなった
安岡章太郎と村上春樹自身の小説観の違いを、明らかにしていることです。



「生身の現実」よりも「ファンタジー」に固執し、
《どちらが良い悪いとか、正しい正しくないの世界ではなく
自分はあくまでも「ファンタジー」を追求したいのだ》と、
いつもながらの村上春樹一流の自己肯定をはじめながら、
歯切れが悪くなり、むにゃむにゃと口ごもる印象がスリリングです。
私はその「ファンタジー」に村上春樹の守りの姿勢を感じてがっかりです。誠実さの欠如を感じて。



村上春樹が個人的な親近感と愛着を吐露している稀有な日本の短編です。お薦め。



質屋の女房 (新潮文庫)



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ラベル:安岡章太郎
posted by 信州読書会 宮澤 at 11:58| Comment(0) | 日本文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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