信州読書会 書評と備忘録

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2013年06月13日

クロイツェル・ソナタ・悪魔 トルストイ 新潮文庫

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★『クロイツェル・ソナタ』あらすじ
汽車の旅で、主人公の私はポズドヌイシェフという眼光鋭い紳士と相席になる。
彼は自分の妻を殺したと打ち明ける。そして彼の独白が始まる。内容は以下の通り。



青年期に放蕩を尽くした貴族の紳士ポズドヌイシェフは、
純潔な女性と結婚し、妻に誠実を誓い家庭生活を営むが
妻との相性が会わない。夜の生活も相性が合わない。
子供ができるとなおさら関係はギクシャクする。


やがて妻はトルハチェフスキーという
バイオリニストから自宅でバイオリンを習い始める。
お互いを意識しあい、いつしか愛情を抱きあうようになる。



夫は、自分以上に妻と相性のいいトルハチェフスキーに
烈しく嫉妬するが、自分の懐の深さを証明する為に敢えて
妻の浮気相手になる人物を自宅に招きつづける。



妻とトルハチェフスキーは、自宅で演奏会を催し、
ベートーベンのクロイツェル・ソナタを二重奏する。
その烈しい調べにふたりの愛のハーモニーを感じて夫は動揺する。


ある日、田舎へ出張に出かけた夫は妻の不貞を勘ぐり、予定を一日早めて自宅に戻る。
夫の留守の間に自宅で逢引する妻とトルハチェフスキーを発見し、妻を刃物で刺し殺す。


★感想
恥ずかしながらトルストイは『ハジ・ムラート』と『にせ利札』しか読んでいません。
ほんとに、そのくらいです。ずっとトルストイ翁を馬鹿にしていて読みませんでした。
全集を読破した友人がいて「何も残らなかった」という恐るべき感想を漏らしたからでした。


今回、トルストイを読んでみて、ほんとひでえな、と憤慨しました。この作品に関しては。


まず小説を、告白形式にしていることで、作品内の事実の客観性を否定した上に
舞台背景などの客観的な描写までもが損なわれていることです。
要するにポズドヌイシェフの退屈で夜郎自大な独白にうんざりさせられます。
同時代に隆盛した自然主義から大幅なる退歩をしるしています。


次に、告白の大部分を占める彼の女性観と性欲全否定は、トンデモナイ内容で
トルストイが民衆を啓蒙するつもりで書いたとしたら、読者にとっては迷惑な話です。


最後に、題名をベートーベンの楽曲からとったことです。
ベートーベンも墓場で途惑ったに違いありません。迷惑な話です。
古典作品がクラシックの題名に使われることはありますが、
クラシックの題名を小説のタイトルにするとは……。
いくら自意識の甘い新人作家でも、躊躇するところです。



トルストイの文学的な自意識欠如は、敵も味方もわからない混戦の中で、
無敵さ誇示するかのようです。迷いはもちろん恥じらいもありません。


ほんとにひどい小説なので、初めてトルストイの年譜を読みました。
そして彼のあまりにも無軌道かつ独善的な人生に驚きました。
過激な人道主義による迷走。著作権の衝動的な放棄。禁治産者としての晩年etc.


腹を抱えて笑ったのは、トルストイが60歳にしてなぜか小学校の先生になるため
願書を出して当局から拒絶されていることです。迷惑な話です。


この作品も発禁処分になり、妻であるソフィア夫人の請願により
出版許可が下りたそうです。こんな女性蔑視の内容なのに。奥さんもやります。


チェーホフもゴーリキーもトルストイの慧眼にビビって
彼の前では緊張のあまり一言も発せられなかったそうです。


無意識過剰というか、志賀直哉を100倍過激にしたシュールなギャグセンス。


もしかしたらトルストイは本当は偉大な文豪なのかもしれないという
強迫観念が頭から拭いきれなくなりました。
たぶん存在を感じながら読む作家なのです。つむじのあたりにでも。
そうすれば、心頭にトルストイが憑依して未曾有の境地に達するのかもしれません。


よく考えると、哲学者と聞いて思い浮かべるのがソクラテスの風貌であるように
文豪って聞いてまず思い浮かべるのは長くて白いヒゲをたくえたトルストイの風貌ですもの、
小説の技巧とかなんとか野暮で鈍なことは言いっこなしなのです。反省しました。


ここはひとつ素直になってみて、虚心坦懐でもって、


一から彼の作品をいろいろ読んでみようと決心しました。


クロイツェル・ソナタ/悪魔 (新潮文庫)


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ラベル:トルストイ
posted by 信州読書会 宮澤 at 11:57| Comment(0) | ロシア文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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