信州読書会 書評と備忘録

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2013年06月11日

雲 アリストパネース 岩波文庫


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★あらすじ
息子のペイディッピデースが競技馬の道楽で散財し
多額の借金を負ったストレプシアデースという田舎紳士がいた。


彼は借金を帳消しにすべく、息子にソフィストになるように説得するがはたせず、
仕方ないので自分がソフィストになるために
ソクラテスの道場の門を叩き弟子として入門し、個人授業を受ける。


しかし、箸にも棒にもかからぬほど飲み込みが悪く、一向に弁論術が上達しないので
業を煮やしたソクラテスは息子のペイディッピデースを呼ぶように命令する。



呼び出した息子も父親に劣らず頭が足りないのでソクラテスは呆れるが、
雲の女神の恩寵によって雄弁家となるべくソクラテスの道場へ入門を許される。
やる気のないソクラテスは、「正論」と「邪論」から直接教えを乞うように告げて退場。
すると、ペイディッピデースの前で「正論」と「邪論」はケンカを始め、「正論」が負ける。


かくして、「邪論」から学んだペイディッピデースは、覚醒して雄弁家となる。
息子の突然の変貌に勇気付けられた父ストレプシアデースは勢いづいて
家に押しかけてきた借金取りを罵倒して追いかえし、
息子の雄弁によって借金取りとの裁判に勝つことを固く信じて宴会を催す。


その宴会で、アイスキュロスとエウリピデスの評価をめぐって親子ゲンカとなる。
「邪論」に影響された息子はアイスキュロスよりエウリピデスのほうが偉大だと屁理屈をこね、
反論する親父を容赦なくこぶしで叩きのめす。殴られた父親は当然、困惑する。



結果、息子に「邪論」を教えたソクラテスを恨んで父ストレプシアデースは
ソクラテスの道場の屋根に登って持ってきた松明で放火する。



「こいつは情けない。息が詰まる」とソクラテスが嘆息して、幕。


★感想
訳者、高津繁春先生の恐るべき「まえがき」がついている。



>>
(アリストファネスの作品は)古代アレクサンドレリア学派の蟻のごとき勤勉と
19世紀ドイツ文献学派の顕微鏡的研究をもってしてもなお不明の個所に満ちている。

<<


とのこと。




さらに、「『雲』はもっとも難解な奇書であって、あえて翻訳したのは
とにかく世に問うで露払いの役を務めたいと思った」という内容のことを述べている。


この悲壮な「まえがき」を笑うべきか、厳粛に受けとめるべきか、読者として迷うところである。


とにかく、難解な喜劇。
喜劇にして難解という矛盾に、作者の過剰な意志を感じる。


全編ソクラテスへの揶揄と皮肉で満ち満ちている。


とにかくおびただしい注を参照にしながら読んでようやく理解できかどうかの代物。
笑えるというよりは、注を読んでから笑うべき場所を確認するという面倒な作業を強いる。



アリストファネスの難解な皮肉や当てこすりや引用のおかげで
この喜劇「雲」は競技によって最下位の第三等に当てられたそうで、
その腹癒せに改稿して後世に読まれる戯曲として残ったという異端の作品である。



アリストファネスは、喜劇『蜂』において
時の将軍クレオーンを揶揄しすぎて中央広場で、
みんなからこづきまわされたそうである。
踏んだり蹴ったりとはこのことだ。


右翼を揶揄して影山正治大東塾長にポコポコなぐられた花田清輝の話を私は思い出した。


それにも懲りずに『雲』でもクレーオンへのあてこすりをやめていない。
そういう意味では根性が座った反逆の喜劇作家である。
エウリピデスよりも尊敬に値する作家魂を感じました。お薦めです。

雲 (岩波文庫)

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posted by 信州読書会 宮澤 at 11:53| Comment(0) | ギリシア古典 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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