★あらすじ
清純な貴族の娘ジャーヌは修道院の寄宿舎を出て、
やがて自分が住むレ・プープルの別荘で、ラマール子爵に求婚される。
おぼこのまま結婚した彼女は新婚旅行でコルシカ島に出かけ、
とどまるところを知らぬ夫の性欲に恐怖する。
新婚旅行から帰ると、女中として同居した乳姉妹のロザリが
夫ラマールに手篭めにされる。不義の子を産んだため、彼女を追放する。
ジャーヌの父は婿にキレるが、婿も舅に、女中を手篭めにしたことくらいあるだろ!!と逆ギレ。
泥沼の応酬の最中、ジャーヌの妊娠が発覚。男の子を産むが、夫との仲は冷めきる。
ジャーヌは信仰に救いを求めようとするも、パラノイアな司祭のおかげで余計におかしくなる。
懲りない夫は、今度は近所に住む貴族のジルベルト夫人と不倫を始めるが、
司祭の密告でジルベルトの夫にばれる。怒り狂ったゴリアテさながらの彼は、
チョメチョメしている密会場所の羊番の移動小屋ごと崖に落とし、ふたりを抹殺する。
夫の死のショックで、ジャーヌは二人目の子を流産し、神経症を患う。
重ねてジャーヌの母親が死ぬが、彼女の不倫の手紙を遺品から見つけて打ちひしがれる。
(母の不倫の相手の名前はなぜかポル。ジャーヌの息子と同じ名前という皮肉)
せめてもの救いを一人息子ポルに託し、彼を溺愛するが、溺愛しすぎた結果、彼を損なう。
低脳のポルは学校に入れても落第しつづけ、女と駆け落ちしてロンドンに行方を眩ます。
このバカ息子は事業起こして失敗しとんでもなく多額の借金を背負い、手紙で送金を無心する。
結果ジャーヌは財産を処分する羽目になり、ジャーヌの父もその心労から脳溢血で亡くなる。
ひとりぽっちになったジャーヌのもとへ、ロザリが帰ってきて夜通し涙に暮れる。
彼女は過去の裏切りの償いとして、無償でジャーヌの身の回りの世話を申し出る。
ポルはさらに博打で借金を重ね、ジャーヌは肩代わりして文無しになる。
ポルの情婦は子供を産み産褥で死ぬ。ジャーヌが引き取った孫娘を胸に抱き終劇。
★感想
自然主義文学の傑作でありながら、どうしようもなく救いのない小説。
あらすじをまとめながら何人死んだかわからなくなり、電卓で数えた。
身内5人、他人2人、犬8匹。このくらい死んでいる。派手に死んでいる。
『嫌われ松子の一生 』だってこんなに死んでないと思う。読んでないけど。たぶん。
貞操の敗北の物語である。
ジャーヌは貞操を守るほど狂気に陥る。
キリスト教への信仰も全く無力である。
信仰を代表するアベ・トルヴィヤック司祭は、不義を糾弾するあまり
子供を産む犬にすら憎悪を抱き、母犬を惨殺。6匹の子犬はまもなく死ぬ。
1匹だけ救われた犬にマッサックル(虐殺)と名づけて育てるジャーヌも狂っている。
「みんな貞操と無縁の不潔な生活をしています(リゾン叔母以外)」
モーパッサンが一番訴えたいのはそれである。
それを訴えたいがために彼は、半ばヤケクソで書いている。
その歪んだ情熱の発露には、困惑させられるほどである。
『女の一生』のエログロっぷりに漱石は激怒して、反自然主義を決意。
逆に荷風はモーパッサンへの私淑の念を深め、仏語の習得に勤しんだらしい。
最後まで信仰を捨てられず、貞操を守ったジャーヌがたどりついた真理。
「神も嫉妬深い」
これである。
深い小説だ。
トルストイも絶賛した名作。お薦め。
女の一生 (新潮文庫)
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ラベル:モーパッサン