信州読書会 書評と備忘録

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2013年06月11日

花影 大岡昇平 講談社文芸文庫


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★あらすじ


戦前から銀座で働くホステス葉子は38歳になる。
戦前は、さまざまな実業家や文士と浮名を流すが、
容色も衰え、そろそろ水商売も難しくなってきた。


一流の人物にちやほやされ享楽が身についてしまった彼女は、
平凡な結婚することにも、身請けされて妾として囲われることも、
自分の店を持つことも情熱が持てず、出口を求めてさまよう。
情事のかけひきが隘路に行き当たり、老いとともに姿を現した
深い虚無感に絡めとられ自殺する。



★感想
大岡昇平の心理小説。発表当時モデル問題で紛糾した。
講談社文芸文庫の小野谷敦氏による解説によると
主人公の葉子は、銀座のクラブで人気のあった坂本睦子であり、
小林秀雄、坂口安吾、河上徹太郎など様々な人物と関係のあった女性だそうだ。
作品に出てくる高島は青山二郎、松崎は作者の大岡昇平がモデルとなっているという。
坂本睦子は作品と同じく自殺している。


モデル問題を云々するとかなり刺激的な作品であり、
高島の零落っぷりは、青山二郎のものかと思うと愕然とさせられる。
(これに関しては『花影』を読んだ白洲正子が大岡に抗議しているらしい。)



モデル問題に興味がなくても「女の一生」として充分興味深い小説である。
夜の女を描いた点で、個人的には吉行淳之介の『技巧的生活』を思い出した。




葉子の同僚であった潤子は店を持ち、金しか信じられない。
また、同じく同僚の亜矢子も自分の店を持つことに情熱を見出す。
その一方で、金に情熱を持てない葉子は、馴染みの客で、
妻に死に別れた税理士の畑に結婚を迫られ、彼の千葉の実家へ誘われる。
そこで見たものは、みすぼらしい家と不安に目の泳ぐ畑の連れ子だけであった.




彼女は、安上がりの結婚とそこに続く退屈な生活への忍耐を生理的に受け入れらない体になっている。
さりとて、継母しか身寄りがない彼女には銀座しか居場所がないのである。
しかし、いまでも映画の恋人のようなポーズを強いられながら男と付き合うのもつらい。
奮起して、金を稼ぐために男を欺くにはやさしくて純粋すぎるのである。





彼女は追いつめられているのだが、なぜか深刻にはなれない。どこか他人事に感じている。
そして、自殺さえも安易で無責任な解決方法として選ばれているところに悲劇がある。


そういう死を選んだ彼女に、生前浅からぬ関係のあった人々は沈黙で答えただけである。
そこに義憤を感じて描かれた大岡による鎮魂歌であって、(彼自身が坂本と最後まで深い関係があった。)
それ以上の文学的価値は見出しがたいような気がする。



では、彼女を殺したのは誰なのか? 


そこまで、大岡昇平は書いていないが、彼らみんなで殺したのだろう。
誰もかもが、彼女を欲得尽くめの打算でしか見ていなかったのだから。


銀座の享楽の果てに生贄のように自死させられた夜の女の哀しい人生をえぐった作品。
現在もどこかで同じ悲劇が起こる可能性はある。そういう意味で古びてないのでお薦め。


花影 (講談社文芸文庫)


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ラベル:大岡昇平
posted by 信州読書会 宮澤 at 11:38| Comment(0) | 日本文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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