信州読書会 書評と備忘録

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2013年06月11日

河馬に噛まれる 大江健三郎 講談社文庫


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あさま山荘事件の5人のメンバーで当時16歳だった少年と
小説家との文通など「あさま山荘事件」を題材にした連作短編集。
1983年から断続的に雑誌に掲載されたものをまとめたもの。

表題作『河馬に噛まれる』は、少年の母親とかつて知りあいだった縁で、
獄中の彼と語り手の小説家が文通をはじめたところからはじまる。
この少年は連合赤軍のメンバーとしてはお味噌扱いで、
山岳ベースで便所掃除を担当させられ、糞便処理装置を作っていた。


小説家は、その少年の行動に人間らしさを感じて、
文通の中で、糞便処理装置の設計図を手に入れる。
「世界の穴ぼこに落ちた」この少年を励ます手紙を小説家は送りつづける。


出獄後少年は、動物学者を志して、ウガンダに暮しているが、
そこで、河馬に噛まれるというユーモラスな事件を起こす。


それに続く作品は『「河馬の勇士」と美しいラベオ』は
姉を総括で失った10才ちがいの妹が、成人した少年にアフリカまで会いにいく話。


3作目『「あさま山荘」のトリックスター』は、
林達夫の葬式からはじまる短編。林達夫の死に顔が東洋の仙人風であったことから、
「あさま山荘事件」を映画化したいと小説家に申し込んできた映画プロデューサーの
仙人の風貌を思い出し、映画化の準備段階における顛末が描かれている。


『アポカリプス・トゥデイ』と題された映画は、グラスをはじめとする
世界的文学者がシナリオを書き、サム・ペキンパー監督するもので
日本の代表である小説家は、「あさま山荘事件」のシナリオを担当する。


小説は主人公を、あさま山荘事件で死んだ民間人田中保彦さんに設定して、
彼が人質の身代わりを申し出て、射殺される場面を山場にしたプロットを作成する。


その際、鍔広の帽子の男が、どこからともなく現われて、仲裁役を買って出て、
連合赤軍と人質が解放軍の都市入場さながら英雄的に投降するという幻想的なシーンを創作する。
(この部分は獄中で坂口弘氏が読んで「感心した」との感想を「あさま山荘1972下」で読んだ気がする。)
映画プロデューサーが誇大妄想狂であったことが発覚し、映画化が頓挫して終わる。


★感想
連作短編はどれも事実と虚構が判別しがたい。


私小説の枠組みを使って描かれているので、半ばエッセイみたいな物で
小説としての結構は弱く、牽強付会な想像の飛躍が激しくて読みがたい。


加害者とその家族の後日談としては興味深いが、それを小説にすることに
倫理的な呵責をおぼえながら、それでも書いていますという
小説家の執拗な自己弁護がいたるところに挟まっていて鬱陶しい。
4作目まで読んで読むのを放棄した。


当事者の手記が出ている現在において、読み通すのは苦痛である。
大江健三郎の小説をずいぶん久しぶりに読んだ。


この事件にこだわる作家としての姿勢は、敬意をおぼえるが、
彼の想像力の質は、リンチ事件の印象と同等か、それ以上の生理的嫌悪を催させる。


だが、売文業の渡世の苦しさを暴露している点は、まだ誠実といえるかもしれない。


河馬に噛まれる (講談社文庫)


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posted by 信州読書会 宮澤 at 11:19| Comment(0) | 連合赤軍関係 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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