信州読書会 書評と備忘録

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2013年06月11日

ブリタニキュス ベレニス ラシーヌ作 渡辺 守章訳 岩波文庫


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★あらすじ
ローマ帝国の暴君ネロン(ネロ)が暴君になるまでの事件を描いた悲劇。


先帝クローディユスの後妻、アグリピーヌの連れ子であるネロンは、
女性として比類なき政治手腕を持ったアグリピーヌの力により
クローディユスと前妻の娘であるオクターヴィと結婚して、
養子縁組を果たし皇帝に即位する。


母であるアグリピーヌが我が物顔で権力を振るうので
若き皇帝ネロンは苦々しく思い、母の影響から逃れるため、彼女との面会を拒否する。



ある日ネロンは妻オクターヴィの弟、(ネロン異父兄弟で、義理の弟。このへんややこしい)
ブリタニキュスの恋人であるジェニーに宿命的な一目ぼれをしてしまう。
ネロンはジェニーにブリタニキュスと別れろと脅迫する。


ブリタニキュスとジェニーの仲を裂くため、ネロンは策略を働くが
アグリピーヌに邪魔立てされ、「誰のおかげで皇帝になったんだ」と説教される。


しかし、配下のナルシスを二重スパイに仕立て、彼の心理的説得を受けて、
ブリタニキュスを毒殺する。ジェニーはショックから遁世し神殿に仕える身となる。
ナルシスは、民衆によって断罪され刺し殺される。
暗殺実行後、絶望したネロンは、自らの狂気を抑えることができず暴君へと変貌する。


★感想
「ラシーヌの『ブリタニキュス』のように、血で血を洗う政治劇を
優雅なアレクサンドランで、というのが私の理想」と三島由紀夫が書いているので読んでみた。


タキトゥスの『年代記』を叙事詩に見たてて描かれたラシーヌ悲劇である。



史実に忠実であろうとするあまり、説明過剰で、読み通すのに骨が折れた。頭が痛くなる。
登場人物の血縁関係が複雑で、(フォークナーの長編より複雑)
その上、筋が高度な数式のように論理的ときているので、いっそうくたびれる。


悲劇の主人公はブリタニキュスのはずだが、彼が一番影の薄い人物である。
なんといっても、第四幕のネロンとアグリピーヌの親子喧嘩が見ものである。
ギリシア悲劇でよく使われる「スティコミティアー」(一行セリフでの対話の応酬)
なんかも第四幕で使っていて、ラシーヌの手だれっぷりが堪能できた。


実は、悲劇そのものよりもラシーヌの序文の方が、かなり面白かった。


コルネイユ(当時63歳)がラシーヌ(当時30歳)の物した『ブリタニキュス』の
初演を邪魔するために取り巻きを連れて劇場に陣取り、野次を飛ばしてわめきちらし、
さらには、お抱えの評論家に、『ブリタニキュス』の欠点をあげつらった批判を書かせ攻撃した。
コルネイユの執拗な嫌がらせが目に浮かんで笑った。嫉妬もここに極まれリの感がある。


ラシーヌは、その批判に答えるために、序文をふたつも書き、弁明している。
コルネイユを寸鉄詩で批判し、史実の歪曲に対して弁明したが、
注目すべきは、その序文に、ラシーヌの演劇論として
「悲劇の結末のあり方ついて」が描かれていることだ。




「私としては、悲劇とは何人もの人間が共に行う一つの完全な劇行為(アクシオン)[筋=事件]の模倣であるから、この劇行為は登場する人間達のすべてが、その結果どのような立場に置かれたかを人々が知るまでは、決して終わってはいないと、常々理解していた。ソポクレスもほとんどあらゆる作品でこのような態度をとっている。『アンティゴネー』のなかで、この王女の死後にハイモーンの怒りと、クレオンの断罪にあれほどの詩句を費やしているのもそのためであり、私も、それと同じくらいの詩句をブリタニキュスの死後、アグリピーヌによる呪詛の言葉と、ジェニーの隠遁と、ナルシスの断罪と、ネロンの絶望とに費やしたのである。」




要するに、ラシーヌは悲劇の「主人公が死んだだけで終りにしてはいけない」と言いたいのだ。


主人公の死が、周辺人物の運命に与えた影響までしつこく書かなければ、
後世まで残る立派な作品にはなりえないと断言しているということだ。


そう考えたら、『魔の山』なんかハンスが死んだあとのセテムブリーニを
書かなきゃまずいんじゃないかという、真っ当な、あまりに真っ当な批判が、頭に浮かぶ。
セテムブリーニはいい奴なのに浮かばれないなあ、という疑念が読後残ったのだから。


いずれにしても、「主人公が死んで終り」という結末は、結末足りえないし、
作者の独善的なカタルシスにしかならない。
よって、「主人公死す、完」では読者や観客に対して不親切極まりないという教訓を教わった。


ブリタニキュス ベレニス (岩波文庫)


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タグ:ラシーヌ
posted by 信州読書会 宮澤 at 11:15| Comment(0) | 戯曲 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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