信州読書会 書評と備忘録

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2013年06月11日

連合赤軍「あさま山荘」事件 佐々淳行 文春文庫

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この事件に関して興味を持ったきっかけは、本ブログで紹介した二冊の本がきっかけだ。


佐藤優の『国家の罠 』と見沢知廉の『囚人狂時代 』である。
1972年に起こった「あさま山荘事件」の首謀者の連合赤軍メンバー5人のうち、
主犯格である坂口弘と吉野雅邦の獄中での様子が描かれていたからだ。



佐藤優氏は東京拘置所で第三十一房の確定死刑囚の隣の独房に移動させられる。
『国家の罠』では、名前が伏せられているが、その独房の死刑囚は坂口弘である。
画用紙に書いた「浅間山」の絵を独房の壁に立てかけ、
様々な書類を山積みにして今、死刑の執行を待ちつづけていたそうだ。
佐藤氏は隣人にかなりの興味とシンパシーを抱き、
保釈後真っ先に坂口弘の獄中手記を購ったそうである。
母親の面会に嬉々として赴く、死刑囚の後姿が一生忘れられないという。




『囚人狂時代』では、下獄した千葉刑務所で見沢知廉氏が、
無期懲役で下獄した吉野雅邦と所内のプレス工場で出会い
知りあいになって交流したエピソードが描かれている。「あさまさん」と呼ばれていた彼は
新人囚にとても親切で、潔癖なまでの献身癖があり、模範囚だったそうだ。


吉野雅邦が獄中内での野球大会やカラオケ大会でまじめに頑張りすぎて、
あばら骨を骨折したり、貧血でフラフラしたりする様子がユーモラスに語られている。


そして、山岳アジトでのリンチ事件での公安スパイの存在をほのめかしている。剣呑な内容…。
極右の見沢氏の極左の吉野雅邦への強い尊敬の念と愛情がうかがえる筆致になっている。
彼は、出獄したら福祉関係の仕事につきたいという夢を持っていたそうである。


あさま山荘事件の主犯格の2人は、本事件で死者3名、負傷者27名の被害を出し、
また、赤軍派の山岳アジトでの総括で、凄惨なリンチを加え14人の仲間を殺している。


これら殺戮は、トロツキイズムや毛沢東主義の思想的信条に基づいて行われたのだが、
獄中に至って、彼らは自己批判して、それらの過激な思想から転向している。



彼らから狂信的な思想の影響がなくなると、これほどまでに人間的な様相を
変化させることに愕然とさせられる。悲劇を演じきった役者の抜け殻としか思えない。
「若気の至り」と反省するような、もともとは根はまじめな人間だったのだ。



「革命」へのロマンチックな陶酔は、人間的で善良な心性を持った若者を、
大量殺人の衝動に駆り立てる危険性を孕んでいることがよくわかる。
彼らに対する佐藤氏や見沢氏の共感は思想に心酔した者や
体制と対峙したことのある者だけしかわからない、政治的立場を超えた人間としての共感だろう。



さて、前置きが長くなったが、『連合赤軍「あさま山荘」事件』は
機動隊の陣頭指揮をとった著者による回顧録である。


「人質の生還」と「犯人の生け捕り」という後藤田正晴警察庁長官からの厳命は、
警察権力への不信感と、過激派の若者にややシンパシーを見せる世論を、
味方につけるための苦肉の策であり、その結果が死者3名の犠牲をやむを得ないものにした。



無謀ともいえるミッションを遂行する警察が、
県警と警視庁の軋轢や、マスコミとの確執という内部的な事情に翻弄される姿や、
予想もしない出来事(次々訪れる人質の身代わり志願者への応対など)が、
かなり批判的かつユーモラスに描かれている。やや不謹慎な面白さである。


しかしながら、体制側にも人間的な煩悶が渦巻いていたのである。
犯人の母親たちによる拡声器を使った説得は、多くの機動隊隊員を涙させた。
泣きながら説得する母親に発砲した吉野雅邦の心情たるやもはや想像もつかない。



息子が「あさま山荘」に立て籠もっている犯人の一人ではないかと警察から知らされて、
赤軍派メンバーの寺岡恒一の両親は、説得の拡声器をとり、涙ながらに切々と息子の投降を訴えた。
しかしこのときすでに寺岡は、仲間によるリンチで処刑にされ、裸で凍土に埋められていた


リンチに関与し、彼を殺害していた坂口弘は、この運命の皮肉に深く動揺した。


このときの坂口弘の心境は、アリストテレスが『詩学』で『オイディプス王』を評して書いた
「おそろしい行為をしているのに気づかずにそれを実行し、あとになって近親関係を認知する」
の一文そのままの情況である。このときになって仲間を処刑した罪深さに気づいたのである。



このときの心情をのちに坂口弘は
「T君の死を知らぬ父上の呼掛けを籠城の吾ら俯きて聞く」
と短歌にまとめ、同志殺しを獄中で懺悔している。自らオイディプスとして盲いた人間・・・


ほとんど、ギリシア悲劇の世界である。事実だけに読んでいて悲しくなった。




(連合赤軍のリンチの凄惨な現場を映画化したものに『鬼畜大宴会 』がある。
友人に薦められて観て、一週間くらい夢でうなされた。お薦めしないけど興味のある方はどうぞ)


事件の首謀者たちは思想的信条のみに則って、行動したのに対して、
機動隊は任務遂行という形而上学的ともいえる使命感だけを支えに事件に対処した。


その事実が、事件に関わった個々の人間の顔立ちを否定し、集団の狂気を浮かび上がらせる。
様々な人間の運命が交錯する『連合赤軍「あさま山荘」事件』の特異性に、心揺さぶられた。


獄中から坂口弘が朝日歌壇に短歌を投稿し、選者の島田修二が知らずに採用したのを
きっかけに、話題となり、その後も本人と確認した上で、歌人佐佐木幸綱が何度か、
坂口弘の歌を朝日歌壇に選歌したそうだ。


(この辺の事情はこちらの『無限回廊』さんのHPに詳しいです。
http://www.alpha-net.ne.jp/users2/knight9/rengou.htm
彼は獄中で歌集もまとめていそうだ。『坂口弘 歌稿 』
いつの世にも必定なのだが、悲劇のあとに歌が残る。


連合赤軍「あさま山荘」事件 (文春文庫)







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posted by 信州読書会 宮澤 at 11:13| Comment(0) | 連合赤軍関係 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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