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★あらすじ
歴史研究家で金利生活者のロカンタンが、カフェで書き継いだ思索日記という体裁の小説。
マロニエの樹の根っこに<存在>することの
不安定さを感じて嘔吐をもよおす有名なシーンがある。
ドストエフスキーの『地下室の手記 』と
リルケの『マルテの手記 』に雰囲気の似た一人称の作品である。
気になった部分は、フランスの国粋主義作家で第一次世界大戦の政府主導者のひとりであった
モーリス・バレスをセリーヌ風の罵倒で腐すロカンタンの夢のシーンである。
『私は、国家主義的作家モーリス・バレスの尻べたをぶった。私たちは三人の兵隊だったが、そのうちひとりの顔のまん中に、穴があいていた。モーリス・バレスが近づいて来て、私たちに言った。「よろしい!」それから彼は私たちめいめいに、すみれの小さな花束をくれた。「これをどこにいれたらいいのかな」と顔に穴のある兵士が言った。それで、モーリス・バレスがこう言った。「君の顔の真ん中にある穴にいれたらいいさ。」兵士が答えた。「おれはお前の尻の穴に入れるよ。」そこで私たちは、モーリス・バレスを向こうむきにさせてズボンを脱がせた。ズボンの下に、彼は枢機卿の赤い服をまとっていた。服をまくると、モーリス・バレスが叫びだした。「気をつけろ、おれのズボン下はひもで足の裏につながっているんだ。」だが私たちは彼の尻を、血がにじむまで殴った。そしてそこに、すみれの花弁で、愛国者連盟会長デルレードの顔を書いた。』
第一次大戦に従軍したわけでもないサルトルがこうバレスを腐すのだから
近代戦の悲惨を体験し傷痍軍人となり、その怨恨からバレスを痛罵したセリーヌには、
サルトルの尻馬に乗ったはしゃぎぶりや贋物のヒロイズムが鼻につき
だからこそ、亡命三部作で「タルトル」と罵倒しつづけたに違いない。たぶん・・・
(モーリス・バレスの経歴は福田和也の
『奇妙な廃墟―フランスにおける反近代主義の系譜とコラボラトゥール 』に詳しい。)
物語の後半、独学者と呼ばれるロカンタンの知り合いの男が、
図書館で少年にワイセツ行為を働き、見咎められ殴られるシーンがあるが、
大江健三郎の『性的人間 』に影響を与えていると思われた。
サルトルの小説としては最も完成されているそうなので。お薦め。
難解な印象があったが、読んでみて拍子抜けした。
あまり作品背景を知らなくても一気に読めて、楽しめた。
嘔吐
新訳も出ました。
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ラベル:サルトル