信州読書会 書評と備忘録

世界文学・純文学・ノンフィクションの書評と映画の感想です。長野市では毎週土曜日に読書会を行っています。 スカイプで読書会を行っています。詳しくはこちら → 『信州読書会』 
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2014年07月22日

フランソワーズ・サガンの『悲しみよ こんにちは』について





サガンのデビュー作『悲しみよ こんにちは』の解説をしました。

薬物依存の父娘を、アンヌが助けようとするという
読み方をすると、腑に落ちるという解説です。

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カミュの『異邦人』を精読するYouTube講座



アルベール・カミュの『異邦人』を精読するという
YouTube講座を行いました。

小説の登場人物の解説および、
ムルソーの無神論や、理神論が
異端審問で、厳しく問われるさまを
お話しました。

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ラベル:カミュ 異邦人
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モーパッサンの『脂肪の塊』を精読するYouTube講座

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普仏戦争をテーマにしたモーパッサンの『脂肪の塊』を
精読するYouTubeを行っています。

普仏戦争に至るまでの、フランスの革命の歴史、
プロシアの近代化を、紹介しています。

そして、馬車に乗った10人の登場人物の政治的、宗教的背景や、
フランスの階級社会について踏み込んで解説しています。

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夏目漱石の『こころ』を精読するYouTube講座

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夏目漱石の『こころ』を精読する講座を行っています。



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ラベル:夏目漱石 こころ
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2014年03月09日

『いねむり先生』 伊集院静 集英社

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伊集院静さんの書いた『いねむり先生』について語りました。


『狂人日記』を執筆していた頃の
晩年の色川武大さんと
作家としてキャリアのまもない伊集院静さんの
濃密な交友が描かれています。

たえがたい鬱屈を、どう癒して生きていくかが
テーマになっています。

睦み合う人間の愛が描かれていますので

ぜひ読んでみてください。













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posted by 信州読書会 宮澤 at 12:38| Comment(0) | TrackBack(0) | 動画での書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年03月04日

柄谷行人 蓮實重彦 他 『近代日本の批評T』について

近代日本の批評について語りました。


良かったらきいてください。
だいぶ酔っ払ってしゃべってます。








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2014年01月27日

志賀直哉の魅力

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志賀直哉の魅力と、純文学とは何かについて語りました



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こころ 夏目漱石 新潮文庫

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夏目漱石の『こころ』について語りました。






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2014年01月22日

芥川龍之介『蜘蛛の糸』について




芥川龍之介の『蜘蛛の糸』と原作となった
スペイン民話『聖女カタリーナ』の違いについて語りました。

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色川武大さんの『うらおもて人生録』

色川武大さんの『うらおもて人生録』について語りました。





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2014年01月11日

三島由紀夫 最後の対談 (古林尚)







三島由紀夫が古林尚とした最後の対談です。
読んだことしかなかったのですが、音声でアップされていました。
感動です。


日本浪漫派の保田與重郎に影響を受けていないと言い切っていますね。

バタイユのエロティシズムを、ザッハリッヒとして
語っているところに狂気を感じます。

自民党から一銭も金を貰いたくない。





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ラベル:三島由紀夫
posted by 信州読書会 宮澤 at 21:17| Comment(0) | TrackBack(0) | 対談・鼎談 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年10月31日

ブライヅヘッドふたたび イーブリン・ウォー 吉田健一訳 ブッキング その4

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★コーデリアの話


ブライズヘッドの妹にコーデリアがいます。

器量もよくなくて、尼僧を目指すのですが、
最終的には、赤十字のような組織に入って
スペイン戦争の野戦病院で働きます。

彼女は、小説の第四章で、チャールスやジュリアと再会します。

チャールスは、再会したコーデリアの印象を


コーデリアが「器量がちっともよくない」女に成長し、

あれだけの燃えるような愛情を血清注射や殺虫剤で紛らわしていると思うのは悲しかった。

コーデリアが旅行に疲れて、何となくみすぼらしい服装をし、

人目を惹くことに関心をなくした女の歩き方をして到着した時、

私は彼女を醜い女だという感じを受けた。




と述べます。


しかり、コーデリアから、北アフリカでアル中になって

修道院に入ったセバスチャンの話を聞かされているうちに、

チャールスは、彼女の心の美しさに気づきはじめます。


そして、コーデリアから、逆にこういわれます。


「貴方とジュリアと、……」とコーデリアは言った。

そして家が近くなってから、

「昨晩、私がついた時、『可哀そうに、コーデリアはあんなにいい子だったのに、

器量が悪くて信心深い一人ものの年増になって、慈善事業に憂き身を窶している、』

ってあなたは、お思いにならなかった、『成長を妨げられた、』って。」


嘘がつけるような場合ではなかった。「思った、」と私はいった。

「併し今はそうでもないね。」

「変ね、」とコーデリアは言った。

「それは私は貴方とジュリアのことを考えていて、頭に浮かんだ言葉なのよ、

皆でばあやの部屋にいるときに。『成長を妨げられた情熱』と私は思ったの。」

コーデリアは母親譲りの、僅かに皮肉を込めた優しい口調でそれを言ったのだったが、

それから暫くして、このコーデリアの言葉が切実な感じを伴って記憶に戻ってきた。



コーデリアの存在は、

チャールスにとってもジュリアにとっても

重要な役割がなかったのですが、

彼らは、『成長を妨げられた情熱』の中で人生を苦しんでいたことを、

皮肉にもコーデリアから教わります。



これが、この作品の宗教的な教訓として、非常に強い印象を残しました。


実はこの話を聴いて、このコーデリアのいう

『成長を妨げられた情熱』のことが思い出されました。


いちばん可愛がらなかった子に世話になる因果の話です。




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posted by 信州読書会 宮澤 at 20:24| Comment(0) | TrackBack(0) | イーヴリン・ウォー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年09月14日

革命運動裸像 福本和夫 こぶし書房

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久々のエントリーです。
この本の感想は、しゃべりました。

こちらをクリックして下さい。(音が出ます)
http://bit.ly/17VkeiK

革命運動裸像―非合法時代の思い出 (福本和夫自伝)




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ラベル:福本和夫
posted by 信州読書会 宮澤 at 03:32| Comment(0) | TrackBack(0) | 自伝 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年07月25日

赤目四十八瀧心中未遂 車谷長吉 文春文庫

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無一物となった私が、アパートの一室でモツに串を刺す私小説。
モツに串を刺す行為が、
輪廻の糸車を回すような狂気の様相を帯びる。


会話は関西弁で味わい深い。


ところどころで生き物や花の美しく詩的なイメージが、
まぼろしのように広がるテクニックがうまい。

思わず紋白蝶を追いかけてしまう主人公が愛らしい。
無気味な挿話もあって効いている。


物欲も性欲も捨てきれない主人公の私が、劣等感に打ちひしがれながら、
業に苛まされ、世を嫉み、出たとこ勝負の冒険の日々を過ごす。
電話ボックスでの金銭の授受や
彫り物師から箱を預かったおかげで因縁をつけられるシーンなど
スリルとサスペンスに満ちている。


この作品の中で好きなフレーズは、
「腐れ金玉が勝手に歌を歌いだす」
溜まっていた性欲が、最後のほうでみごとに発散される。


この小説にでてくる登場人物はみんな目つきが悪い。


還俗した坊主の世迷言を仏教説話集にまとめたような作品。
触るものみな傷つけるといわれる車谷作品では、もっとも落ち着いて無害なので読み易い。


他の作品では実名で悪罵を連ねるものもあり
心理的の食あたりを起こすので要注意。


赤目四十八瀧心中未遂
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ラベル:車谷長吉
posted by 信州読書会 宮澤 at 10:38| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

大本営参謀の情報戦記 −情報なき国家の悲劇 堀栄三 文春文庫


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大本営参謀として情報部において米英担当し、
マッカーサーの参謀とまで謳われるほど高度な情報分析を行った堀栄三参謀の回顧録。
日本の敗戦の原因を、情報の不在から具体的に説き起こした名著である。



ミッドウェー海戦での敗北を機に守勢に回る日本軍において、
アメリカ軍が制空権を完全に掌握し、「飛び石作戦のローテーション」と呼ばれる戦法で
次々に日本軍を玉砕させていく中、
その戦法をいち早く見抜き、アメリカ軍の上陸地点の予測や戦力の分析によって、
フィリピンでの第一師団の持久作戦を可能にした事実が明らかにされている。


しかしながら、情報部米英課ができたのが、太平洋戦争開始から6ヶ月後であることや、
大陸戦しか経験してこなかった司令部が、制空権を軽視していたこと、
作戦部が情報部の電報を故意に握りつぶし、悪名高い大本営発表によって戦況をますます悪化させたことなど、
情報戦においてすべて米軍の後手にまわるしかなかった日本軍のお粗末な状況が赤裸々に描かれている。


『政治も教育も企業活動も、一握りの指導者の戦略の失敗を、
戦術や戦闘で取り戻すことは不可能である。』




という著者の指摘は、現代日本の構造的欠陥への鋭い批判とも読める。



戦史研究の書としては必読の書であり、
先の戦争を民衆の視点から描いた戦争文学(たとえば原民喜の「夏の花」)と
軍務に関わったものの記録としての本書を交互に読むことで敗戦からの教訓は導き出されなければならない。
本書を読んで大岡昇平の「レイテ戦記」の作品の意味もわかってきた気がした。



敗戦後、軍人であった父に、「負け戦を得意になって書いて銭を貰うな!」と諌められ
長い沈黙を守ってきた堀栄三を一年かけて説得し、この書を書かせた保坂正康の情熱もみごとだ。



大本営参謀の情報戦記―情報なき国家の悲劇 (文春文庫)

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posted by 信州読書会 宮澤 at 10:37| Comment(0) | TrackBack(0) | ノンフィクション | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

悲しみよ こんにちは サガン 新潮文庫

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若く美しく女蕩しの父を持つセシルが、父の恋人エルザと三人で南仏へバカンスに出かける。
そこへ、亡くなった母の古い友人であるアンヌがやってくる。
アンヌはファッションデザイナー、知的で洗練されて魅力のある女性だったが、
セシルには高慢で冷淡な女にも見え、かすかに反発をおぼえていた。
だが、セシルにとってアンヌは、軽薄な父や自分のいる世界と別の知的な世界に住んでいる
人生の達人であり憧れの人物でもある。



セシルの父、レエモンとエルザ、アンヌの三角関係の時間は短く
アンヌの自然な強力な魅力は、エルザからレイモンを奪い取る。
セシルはその模様を間近で眺めながら、アンヌから恋愛そして人生を学ぶ。


アンヌは、恋に恋する17歳のセシルにこう諭す。



『あなたは恋愛について少し単純すぎる考えをもっているわ。それは独立した感覚の連続ではないのよ。(中略)そこには絶え間ない愛情、優しさ、ある人の不在を強く感じること。あなたにはまだ理解できないいろいろなこと……』



要するに、ワンシーンごとの印象と快楽は、恋愛の入り口にすぎないという説教。
アンヌの皮肉や逆説はセシルとってボディーブローのような低い一撃となって堪えてくる。
やがて、セシルはアンナに自分の住んでいる世界を否定され、自尊心を傷つけられる。
そして、最愛の父をアンナの世界が形成されはじめると、
疎外感と孤独に堪えられなくなる。



セシルからすべてを奪い去ろうとする「美しい蛇」アンナ。
セシルは父とアンナの愛を徹底的に妨害し、アンヌを破滅させる。



17歳の少女の若さゆえの無垢な残酷さを、瑞々しい詩情とともに描いた作品。
セシルは、突発的に刃物で人を殺す現代日本の少年と同じくらいヤバイ女の子だ。
なににせよ、人を追いつめて殺しておいて「悲しみよ こんにちは」というだから。
この厚顔さは、恐るべきものだと思う。


サガン19歳のデビュー作。全世界でベストセラーとなった。


人生に対する洞察という点で、すぐれた格言がちりばめられている。
人を傷つけるほどの過剰な洞察力をもてあまして、
退屈している女子大生にはお薦めの作品。


悲しみよこんにちは (新潮文庫)
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posted by 信州読書会 宮澤 at 10:35| Comment(0) | TrackBack(0) | フランス文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

瀬島龍三 参謀の昭和史 保坂正康 文春文庫

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瀬島 龍三(せじま りゅうぞう、1911年12月9日 - 2007年9月4日)は、
大日本帝国陸軍の軍人、日本の実業家。陸軍士官学校第44期次席、
陸軍大学校第51期首席。大本営作戦参謀などを歴任し、最終階級は陸軍中佐。
戦後は伊藤忠商事会長。


ウィキペディアより。


大本営参謀→シベリア捕虜→伊藤忠商事会長→第二臨調副会長 と
昭和史節目節目にその姿をあらわした
謎多き男の真実をあばくノンフィクションである。
瀬島龍三は山崎豊子の『不毛地帯』の壹岐正のモデルともいわれるが、
『不毛地帯』は未読。長いのでしばらく読まないだろう。
ともかく、陸軍のエリートがどんなものだったかわかるので興奮する。


『沈黙のファイル』は資料が豊富だが、保坂氏の描く「瀬島龍三」のほうが、
瀬島の履歴改ざん(ロシア捕虜時代の話や参謀としてのソ連との敗戦協定の話)を
弾劾しつつも著者の瀬島に対する愛が伝わってエロティックだと思う。



保坂氏の著作の、ことのほか小説的な記述に鼻白む向きもあるが、
保坂氏が取材過程で発掘した元情報参謀、堀栄三氏の著作など
ノンフィクションならでは新事実発見ドラマがあるのが見所。

瀬島龍三は中曽根政権(1982年〜1987年)のブレーンとして、
第二次臨時行政調査会(土光臨調)委員などを務め、政治の世界でも活躍。


ソ連、アメリカのどちらの情報機関にも人脈があったとされるが、
詳細はいまだ不明です。

瀬島龍三―参謀の昭和史 (文春文庫)








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宿六 色川武大 色川孝子 文春文庫

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宿六・色川武大 (文春文庫)

「狂人日記 」「百 」などで知られる色川武大。
阿佐田哲也の名で「麻雀放浪記」など麻雀小説も多数手がけた。
彼の夫人による回想録である。
色川の無頼と懐の深さは有名で、井上陽水、黒鉄ヒロシ、伊集院静など有名人から、
彼の家に押しかけてくる無名の作家志望の青年、
賭博仲間のヤクザまで幅広い交友関係を躊躇みせることなく受け入れた。
色川夫人は、色川武大の20歳ほど年下のいとこにあたり、
時には娘のように奔放に、時には母のように献身的に、生活を共にした。



ナルコプレシーという奇病を患いながらも、
他人に対する過剰なサービスをやめることができない色川の自己演出を心配するくだりは、
立川談志が「阿佐田哲也を殺したのはこいつらだ」と喝破した
「阿佐田哲也の怪しい交遊録 」のあとがきと双璧をなしている。




色川の過剰なサービス精神は、純文学作家への憧れがなせる業であり、
佐藤春夫や広津和郎のような誰との分け隔てなく付き合って、
財産も残さないある種の純文学作家の系譜につらなることがこの本からわかる。
伝説につつまれた色川像を壊すことなく、意外な一面を付け足してくれたという印象の本。
ファンにとっては読む価値がある。


一部知人の間では、出版しないほうがよかったんじゃないかという声もある。



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posted by 信州読書会 宮澤 at 10:31| Comment(0) | TrackBack(0) | 評伝 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

リリー&ナンシーの小さなスナック ナンシー関 リリー・フランキー 文春文庫

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ナンシー関の最後の対談集。クレアに連載されたもの。
お相手は「東京タワー」が現在200万部のベストセラーとなっている
リリー・フランキーだ。
1学年の歳の差ということもあって、
感覚が似ているという点で、
お互いの持ち味がよく出た対談集だ。


TVコラムのイメージが強いナンシー関だが、
本書では芸能関係の話題を柱におきながらも
ナンシー関の日常生活や思考の回路、人間洞察のポイントといった、
既出本では窺い知ることのできないナンシーに出会える。
それは、対談相手がリリーであることが大きい。


両者の身近でささいな出来事に細かくツッこんでいく
視点の持ち方に共通点があるため、
コラムニストの種本というか楽屋本ともいえる
内容に傾いていく、そこが本書の読みどころだろう。
自動車免許取得の体験談や初めてテープレコーダーを買ったときの使い方など、
小さな話題を、お互いツボを刺激しあい、
なるほどと思わせる世間知をさりげなく、
かつ惜しみなく応酬しながら、
会話をころがしてゆくというライブテイストが楽しめる。
下ネタ嫌いのナンシー話がうまくかわすところも見ものだ。


たとえば字の話で



リリー  真面目な原稿を書いている時は、やっぱり達筆に書いているし、
     ポコチンの話なんか書いている時は、なんかちょっとポコチン寄りの
     字になっていますね(笑)。


ナンシー 適材適所(笑)。




というように。

まるで、仲のよい姉と弟がこたつで会話しているような
面白さとやさしさ、あたたかさに満ちていて


いつまでも読んでいたいのだが…。
ナンシー関の最後の本になってしまった。
リリー・フランキーのあとがきが涙を誘う。



個人的にはナンシー本では本書と
「信仰の現場―すっとこどっこいにヨロシク 」 角川文庫
がフェイバリット。


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posted by 信州読書会 宮澤 at 10:30| Comment(0) | TrackBack(0) | 対談・鼎談 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

無関心な人びと(全二冊) モラーヴィア作 河島英昭訳 岩波文庫

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モラーヴィアといえば、イタリアの三島由紀夫というイメージが私の中にある。
20歳で本書を処女作として上梓した早熟な才能であるという点と
現代文学において物語を書くことの
孤独と不毛を象徴している作家であるという点においてである。


主人公の青年ミケーレは没落寸前のブルジョワ。
家庭の崩壊を食い止めることもできず、
恋愛にも真剣になれず、情熱を傾ける対象を見失っている。



会話と心理描写は、ガラス工芸品のように繊細で
すべてセクシャルな欲望の陰影をまとう。
道徳的規範がもはや形骸化して、欲望に呑み込まれていく
世界の光景が描かれている。
ただただ、崩壊の前に立ち尽くすミケーレは
今現在の日本の状況に出て来ても違和感のない主人公だ。


ブルジョワの頽廃を描いたかどで本書は
当時のファッショ政権から発禁処分を受けた。



古典的な心理小説の方法を採用しているので読みやすく、
破綻のない構成なので安心して読める。(三島の小説と同じように)
ハイティーンの学生が喜んで読んだと吹聴したくなる作品。
読書遍歴を重ねると読み返すのが苦痛になる作品でもある。



モラーヴィアの作品はかっちり作られていて
映画化の際に自由に脚色できるので重宝がられ
ベルトルッチの「暗殺の森」ゴダールの「軽蔑」などの
原作として、今なおファッションアイテムのように
二次的に消費されている。


モラーヴィアが好きな人にはパヴェーゼもお薦め。


無関心な人びと〈上〉 (岩波文庫)

無関心な人びと〈下〉 (岩波文庫)


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posted by 信州読書会 宮澤 at 10:29| Comment(0) | TrackBack(0) | イタリア文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

レディー・イン・ザ・ウォーター

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舞台はコープ・アパートというさまざまな人種の人々が住むアパート。
管理人のクリーブランドは、アパートの真ん中にあるプールで
ストーリーという女性に逢います。彼女は水の精で、邪悪な怪物のせいで
「青の世界」に戻れなくなってしまいます。
そこで、住人みんなで協力して
彼女を青の世界に戻してあげるという
御伽噺みたいな話。



以下はネタばれ


私はシャマラン作品は「シックスセンス」「サイン」しか
観てないで、前作の「ヴィレッジ」に比べてどうだとか
言えないのですが、楽しめました。
最初の30分は、水の精ストーリーを演じるブライス・ダラス・ハワードが


ミルコ・クロコップに似てて、
ポスターみたいな美人じゃなくて興ざめしてました。
しかし、どうでもいいアパートの住民が
グダグダのまま物語りに巻き込まれていく段になって
引き込まれました。



ラストは、超端役の右腕だけを鍛えている変な男が、
実は守護者で、スクリクトとかいう狼をモップで
追っ払うシーンには笑いました。



あと映画評論家が
「ホラー映画で嫌われ者の端役が最初に殺されるシーンと一緒だ」
といいながらスクラントに襲われて、そのままどうなったかわからないところとか
最後にスクラントがサルみたいなモンスター3匹
(サインにでてきた宇宙人みたいなモンスター)に
新日のプロレス乱闘みたいにポコポコ殴られて、
森の中に引っ張られていく哀愁いっぱいのシーンとかに
私は大爆笑しました。

といっても映画館は三人しか観客がいなかったので
一緒に笑う声もなく、声を立ててまでは笑えませんでしたが。



「サイン」もそうなのですが、ところどころ爆笑させるシーンがあって、
多分そこで笑えない人にはつまんない映画なんでしょう。
基本的にコメディーだと思って観るべきだと思いました。
すべての徴候がそのまま説明もなく解決もなくラストを迎えます。
カタルシスの中途半端さが一部の人をして
激怒させているようです。


レディ・イン・ザ・ウォーター 特別版 [DVD]
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posted by 信州読書会 宮澤 at 10:27| Comment(0) | TrackBack(0) | 洋画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

浅草キッド ビートたけし 新潮文庫

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ツービートの漫才ブームやひょうきん族をリアルタイムで知らない。
よくおぼえているのは、なるほど・ザ・ワールドの特番スペシャルで番組対抗で出演したたけしが、黒柳徹子を「この、ババア」と、おちょくったことだ。スタジオは凍りついていたが、テレビで見ていた小学生の私は笑った記憶がある。黒柳徹子を目の前でババア呼ばわりして笑いをとろうとした芸人はその後見たことがない。あのころのビートたけしはギラついていてアナーキーだった。


「浅草キッド」は、たけしの師匠、深見千三郎に捧げられた小説だ。
深見千三郎はたけしの芸人としての出発点となった、ストリップ劇場フランス座の座長で、最初で最後の師匠である。江戸っ子で口が悪く、そのくせ繊細で、サービス精神旺盛、さみしがりやで、なおかつ孤独の影が常にさしている師匠。
その師匠に感化され、たけしが芸人として独り立ちしてゆく姿が描かれている。



深見の芸でたけしがもっともお気に入りなのが、師匠の持ちネタ「川の氾濫のコント」。
役場の職員が権力をたてにして「役場の人間をナメているのか」と言いながら脅しで女の子のパンツをのぞこうとするセコサが笑いどころのコントだ。
田舎者や権力者の愚昧を徹底的に笑っていくというたけしの芸風は、師匠から引き継ついだことがよくわかる。



芸人としての矜持を忘れないことを教え、本物の芸の迫力を伝えようとする師匠の指導は、浅草の演芸場が時代とともに斜陽になってゆく中で、生身の人間としての生き様を滑稽な悲哀ともに見せることに他ならなかった。


かわいがられたたけしも、浅草に飽きたらずにコンビを結成して漫才するためにフランス座をでてゆく。
師匠はもはやとめるすべがない。修行途中で出て行くたけしと決別する



師匠は漫才を芸だと思っていなかったし、漫才なんか芸じゃないと、本気でそう思っているところもあった。漫才は世の中に出るための足がかりで、芸人の目標ではなじゃない、とたけしは語る。本書は、浅草を飛び出したにもかかわらず、なかなか芸人として売れないところで終わる。そしてその後のたけしの作家や映画監督としての幅広い活躍を見ることもなく、深見千三郎は孤独な焼死を遂げる。師匠と弟子の関係が鮮やかに描かれている。


たけしが深見千三郎と飲んだ夜に、火事があって参ったとTVで話していました。

深見千三郎はウィキペディアによると美ち奴の弟だそうです。驚きました。


浅草キッド (新潮文庫)

続編は「漫才病棟 」文春文庫 こちらもお薦め。






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アドルフ コンスタン 新潮文庫

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皮肉屋で諧謔家、冷笑家、鼻持ちならない若者アドルフは、
自尊心を満足させるほどの女性に廻りあわず、一度も恋をしたことがなかった。

完全に釣り合いのとれぬ相手との結婚は赦さないが、結婚を問題にしないかぎり
どんな女をものにし、捨てても構わないという不徳な女性観を父親に植えつけられたアドルフは、
社交界にデビューし、ある伯爵の情婦にエレノール出逢う。



彼女は教養にあふれ、自尊心も高い女性だが、破産しかけた伯爵に献身的につくし、
彼の財産を回復する手助けをするやさしいさも兼ね備えていた。



伯爵との間にできたふたりの子供を愛し、信仰心厚く、身持ちの堅い彼女に、
日々惹かれてゆくアドルフは彼女に愛を打ち明け困難の末に結ばれるが、
父から他国での仕事するようにとの命令、友人の伯爵を裏切る自らの行為、
そして先の見えないエレノールとの関係に悩む。




彼女に身を捧げても一向に自分が幸せになれないと気づいたアドルフは、
急激に恋の熱狂から冷め、エレノールが疎ましく思う。



さらに父親からエレノールとの関係を叱責され、
エレノールに別れを切り出すと、嫉妬に狂った彼女はあらゆる手段で
アドルフを取り戻そうとする、が…。



アドルフのエゴイズムを嫌というほどみせつける小説。




近代フランス心理小説史上最高傑作のひとつといわれる悲劇である。
心理描写は生々しいが人工的な作品で、その後のフローベール、
スタンダールなどに受け継がれる恋愛小説のパターンの元祖を形作っている。




たとえば、アドルフを出世主義者として造形すれば、
「赤と黒」のジュリアン・ソレルになるし、
エレノールは、そのまま「感情教育」アルヌー夫人に生まれ変わる。


「ハムレットとアドルフ」とは三島由紀夫の指摘。 
どちらも今日では全世界に一般化された病的性格であると述べ、再読三読に堪える作品と激賞した。


アドルフ (新潮文庫)








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posted by 信州読書会 宮澤 at 10:25| Comment(0) | TrackBack(0) | フランス文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

文壇 野坂昭如 文春文庫

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野坂昭如の含羞の文壇回顧録。副題は「吉行淳之介とその時代」とでも言おうか。
シーンは、色川武大の中央公論新人賞授賞式から始まる。


電通の早朝ブレインストーミングに、
外部スタッフとして参加し、
朝八時から、ビール2本を飲んでいる野坂昭如。
(それもそれで今やってる人がいたらカッコイイが)

『…高校生活一年で少し身につけたハッタリ術によって、いやさらに酒と黒眼
鏡で、どうにか民放を凌いできた。』


こんな具合で、いくら稼ぎがよくても放送業界の仕事に本気になれない。



一方に高校の先輩である丸谷才一や中山公男が、下情に疎いながらも、
フローベール、ソシュールの言語論など、知らない固有名詞を闘わせる世界があり、
そこで文学のとてつもない高みがあることを知り、震撼する。




ついに、民放での仕事から足を洗い、野坂は小説家の志を立て文壇への一歩を踏み出す。
その重要なきっかけとなった人物に関する記述が以下


『書いてみようと発心したのは、名前は聞いたに違いないが、すぐ念頭から
失せた、あの壇上の受賞者の影の如きの存在』


この物故者に対して野坂昭如が過剰なライバル意識を抱いていたことのわかるで興味深い一文。


まだ、文壇があり、文壇バーが隆盛の時代。その周辺をたむろしながら、
野坂は現代文学の双璧を三島と吉行と見極め、常にふたりの動向を追いかける。
特に吉行の人との付き合い方、言葉遣い、服装などに
小説家の典型として「筋が通った」ものを感じとり私淑する。



そして、彼らから認められるかどうかという緊張感の中で野坂は、見切り発車の創作活動を開始。
作家がお互いに、存在を見定めあう文壇の視線の厳しさが随所のエピソードに伺える。
小説家の姿勢というものについて思いをめぐらせたい人にお薦めの本。



文壇知識に疎い人にまたは興味のない人にとっては、
野坂昭如がジブリアニメ「火垂るの墓」の原作者で
「おもちゃのチャチャチャ」の作詞家であるというトリビアを証明してくれる本。



文壇 (文春文庫)




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posted by 信州読書会 宮澤 at 10:23| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

十九歳の地図/蛇淫 他 中上健次 小学館文庫

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『ぼくは十九歳の予備校生だった。
いや、新聞配達少年だった。ぼくは希望がなかった。』


主人公の「ぼく」は、自分に折り合いのつかない少年。
寮の同室、三十過ぎの紺野は、淫売のマリアさまという
実在するかわからない娼婦の話をぼくに聴かせる。
「ぼく」は紺野をこんな心底軽蔑していて、
こんな風になるなら死んだほうがましだと思っている。
しかし紺野はぼくの心を見透かしたかのように



『三十男はきたならしいな。自分で自分を殺すなら二十五歳までだな。』


と言ってのける手ダレのダメ男。自虐的でしたたか。
だが彼は作品の重要人物だ。



「ぼく」は、みすぼらしい日常生活に堪え切れず、
配達先の気に入らない家庭を地図におとして



『松島悟太郎、この家は無印だが、発見した場所を記念して、
一家全員死刑、どのような方法で執行するかは、あとで決定することにする。』


以上のようなことをつぶやきながらの綿密にリストアップし、
イライラすると次々に脅迫電話をかける。
時には右翼と偽ったり、
東京駅に電話し、狂った兄が夜行汽車に爆弾を仕掛けたと脅す。



やがて、紺野が淫売のマリアさまから金をもらったことを自慢し、
「ぼく」は女に愛されない、紺野以下の人間だと自覚する。
いたたまれなくなってまた脅迫電話をかけ、しまいには号泣する。
別に、犯罪には手を染めない。


この小説は、 梶井基次郎の「檸檬」と同じだと思った。


現実とみすぼらしい自分とのギャップを埋めようとしたとき
檸檬の主人公は、丸善の本棚に洋書を重ねて


爆弾に見立てたレモンを置いたのだし、
「十九歳の地図」の「ぼく」は、自分を受け入れない現実への復讐のために
脅迫電話をかけまくったのだと。


ただ、「十九歳の地図」は「檸檬」に比べて、
美的なものが一切排除されているので
詩情の抑制された、陰惨な仕上がりになっている。


大江健三郎の「セブンティーン」の影響が指摘される作品だが、
案外、安岡章太郎の「悪い仲間」に近いと私は思う。
女を知っているか、知っていないかという
青春の大問題を扱っているのだ。
隣のアパートの夫婦の痴話喧嘩を「ぼく」が醜く思うのは、
そこが原因だろう。紺野はそんなこと思わない。


中上健次の習作と位置付けられる作品。
柳町光男監督で映画化された。
主演は「ゴッド・スピード・ユー!/BLACK EMPEROR 」に出ていた人。
誰だか忘れました。


十九歳の地図・蛇淫 他―中上健次選集〈11〉 (小学館文庫)







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posted by 信州読書会 宮澤 at 10:22| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ペスト カミュ 新潮文庫

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ノーベル賞作家あるカミュの作品。
ペストが流行し隔離された街で、医師リウーがペストに挑む作品。
いつおさまるかわからないペストと闘うリウーの勇気に共鳴してゆく仲間たち。
人びとの連帯が力強く描かれている
のだけれども。



人びとの連帯という意味では
スペインの人民戦線を描いた
マルローの「希望」(新潮世界文学 45 マルロー (45) 所収)
のほうが私には感動的だった。



ペストが意味しているものが、
不条理な暴力なのか、ドイツの占領なのか
人々の心理的不安ななのか
最後まで読んでわからず。



ただひとつ、キリスト教の代表としてあらわれた司祭パルヌーが
罪なき少年の死に立ち会って、自らの無力を認め、
「理解できないものを愛さなければならない」と思わずもらすとき、
決然として「そんあことはありません」と非難するリウーの姿は感動的だ。



宗教的確信なしに、――つまりは、人類の救済などという使命なしに
行動するリウーのような人間こそが、実存主義者だと、
カミュは「ペスト」の中で訴えたかったとみえる。


解説によると、カミュはこの作品を自身の作品の中で
最も反キリスト教的と称したそうだ。



「幸福な死 」「異邦人 」は
「自己への誠実」を実存主義に根本にすえていたが、
「ペスト」では、さらにそこへ正義への行動を通した
人びとの連帯が加えられている。
しかし、全体として散漫な印象を受ける作品だ。長い。長すぎる気がする。


戦後のフランスで熱狂的に迎えられた理由を
もはや知ることが出来ない気がする。
敢えて不遜な言い方をすれば、
時代とともに古びていく作品なのではないか。


東日本大震災の後に読むと、また違った感想がある。
日本において宗教が、人を救済しないとしたら
放射能汚染は我々にとって何を意味するのか、
『ペスト』を読みながら考えてみたい。

アマゾンで買うならこちら『ペスト (新潮文庫)』



新潮世界文学 45 マルロー (45) 王道・人間の条件・希望

希望 テルエルの山々 [VHS]




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ラベル:カミュ
posted by 信州読書会 宮澤 at 10:21| Comment(0) | TrackBack(0) | フランス文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

オコナー短編集 オコナー 新潮文庫

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オコナーの「川」について。


ベビーシッター、コニンさんが
あるご家庭のお坊ちゃんハリーに
洗礼を施すために川に連れて行くというお話。



聖書を引用、参考にしつつ
キリスト教の奇跡を信じる善良な人と
信仰心の失われた現代の
埋めがたい溝をグロテスクなユーモアで書いた作品。



ハリーという坊やは、コニンさんにペヴェルと
名前を偽るクレヨンしんちゃんみたいな子。



この子は聖書の一説に従って、コニンさんの家を豚にがす。
この子をいじめる、コニンさんの三人の息子が、
カフカの作品に出てくるいたずら好きな脇役に似ている。


フラナリー・オコナー全短篇〈上〉 (ちくま文庫)

フラナリー・オコナー全短篇〈下〉 (ちくま文庫)



以下余談で、最近気がついた話です。


2006年に村上春樹が受賞した、オコナー賞というのは
フランク・オコナーというアイルランドの作家の業績を
記念して作られた、国際短編賞です。




なので、フラナリー・オコナーとは別人です。


フランク・オコナーは、岩波文庫から短編集出ています。







実は、調べていて分かったのですが
フランク・オコナーは、リバータリアリズムの始祖である
アイン・ランドの旦那です。


アイン・ランドは、FRB元議長のアラン・グリーンスパンが
『思想的母』と仰いだ女性作家だそうです。



1998年のランダムハウス/モダンライブラリーの
「アメリカの一般読者が選んだ20世紀の小説ベスト100」には、
『肩をすくめるアトラス』が第一位、『水源』が第二位に選ばれています。


日本では、最近知名度が上がってきました。
アインランドは、アメリカで非常によく読まれているそうです。



日本では、2000年代にようやく邦訳が出ました。
副島隆彦さんや藤森かよこさんがが熱心に紹介しています。


水源―The Fountainhead




肩をすくめるアトラス


リバータリアリズムは、アメリカで熱心な支持者のいる思想です。

ネオコンとは真逆の、民衆思想です。


クリントイーストウッドの映画作品が、
リバータリアリズムの影響の元に製作されていると
副島隆彦さんが指摘しています。



私も時間があれば読んでみたいで紹介したいと思います。



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posted by 信州読書会 宮澤 at 10:15| Comment(0) | TrackBack(0) | キリスト教文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

欲望という名の電車 T・ウイリアムズ 新潮文庫

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ある日、妹ステラ住む小さなアパートに、姉のブランチがやって来る。
この姉妹はアメリカ南部ベルリーヴの大農園に生まれた。
実家はすでに競売にかけられ、なくなっている。


品のいいお嬢様のまま、ブランチはステラのアパートに身を寄せる。
ステラの夫スタンリーは、欧州大戦では将校だったが、現在は工場に勤める労働者。
突然やって来たブランチの上品ぶったわがままぶりが気に喰わない。
そしてとうとう、ブランチの常軌を逸した言動の原因を暴く。
ブランチの嘘は、陰惨な過去から生まれたものであった。





南部没落貴族の運命の悲惨を描いた作品。
これは、フォークナーの作品世界の主題にもつながる。




ブランチが過去にうけた心の傷から逃げだすために
貴婦人を装う精一杯の演技や
出身階級の誇りと潔白を守るための様々な作り話を続ける。
これが、ブランチに思いを寄せるミッチを魅了し
そして彼をズタズタに傷つけ、辱める。



妹のステラにさえ疎まれたと感づいた彼女が
自分から街を出て行くことを告げるシーンは
涙なしにはよめない。



過去に恋愛で取り返しのつかない心の傷を受けた人は
ブランチに同情と共感の涙を流しながら読める作品。


そうでない人は、スタンリーの荒々しい男気を愉しんで読んで下さい。

amazonで買うならこちら『欲望という名の電車 (新潮文庫)』




エリア・カザン監督の映画もすばらしい。





マーロン・ブランドもビビアン・リーもハマリ役。
映画版はヘイズコードのせいで原作のエグみがなくなっているので、
まず原作を読んでみて下さい。



エリア・カザン自伝に、ブランド、ウィリアムズの
興味深い逸話が垣間見える


エリア・カザン自伝〈上〉


エリア・カザン自伝〈下〉






上記の本は『欲望という名の電車』を
政治思想映画として解読している
ソエジーこと副島隆彦先生の映画評論です。


この映画を評論しながら
アメリカ下層白人社会の分析を
行っています。


私はこの本から
アメリカ南部の歴史的な政治思想とは
まったく別個のアメリカ下層白人社会の
内部的な対立があることを
教わりました。



こちらは、フォークナーやスタインベックなどの
描いているアメリカ南部の闇とは別の問題です。

蓮實重彦の映画評論よりよっぽどためになります。


オススメです。

アメリカの秘密―ハリウッド政治映画を読む (オルタブックス)



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posted by 信州読書会 宮澤 at 10:13| Comment(0) | TrackBack(0) | 戯曲 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

今年の秋 正宗白鳥 中公文庫

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今年の秋 (中公文庫 A 139)



オコナーの短編集を読みながら、正宗白鳥の文体を思い出した。
どちらも文体に力強い確信がある。
逡巡や曖昧さがなくて、彫刻のような輪郭の清明をもった文体だ。
どちらも敬虔なキリスト教徒で、死ぬまで聖書を手放さない人間である。




『私は精神的な目的を信じない者ではない。また、漠然と信ずるものでもない。
私はキリスト教の正統的立場から物を見る。
私にとっては人生の意味はキリスト教による私たちの救済に中心を持ち、
私は世界の中で物を見るとき、このこととの関連において見る』



とオコナーは言う。


「今年の秋」は小説とも随筆とも評論ともいえない二十三篇から成り立っている。


父の死を扱った「今年の春」では、死にそうで死なない病床の父を描いた短編だ。
苦しむ父が、長男の嫁に最期の力で、東京に帰るのかと尋ね、
「帰っちゃならんぞ。ええか。この家にいるんだぞ。」と強く忠告する
末期にいたって、家の心配をする。
もうすでに、死を恐れていない人間を描いている。


これは白鳥が、オコナーと同様に、
人生の意味をキリスト教との関連において捉えていからだ。
父の死が、聖書に描かれたキリストの死と同じように必然的に扱われている。
感傷の入り込む余地がない。
そういう意味で私にショックを与えてくれた作品だ。
作品より人間が先行している正宗白鳥だが、その魅力を伝えるものとしてお薦めは以下。


「正宗白鳥と珈琲」 (同時代の作家たち  広津和郎 岩波文庫 に所収) 
「白鳥の死」    (楢山節考  深沢七郎 新潮文庫 に所収)
「白鳥の精神」   (小林秀雄対談集 講談社文芸文庫 に所収)


白鳥の人柄の温かさがうかがえる。
特に、私は広津和郎を喫茶店で「ここだ、ここだ、広津君!!」と呼びとめる白鳥の話に笑った。
実は、気難しそうにじっと、広津和郎を待っていた白鳥の含羞が目に浮かぶ。







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posted by 信州読書会 宮澤 at 10:11| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

魚雷艇学生 島尾敏雄 新潮文庫

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海軍兵科予備学生の島尾敏雄が、
終戦までの二年間訓練をうけて
遂には、人間魚雷の特攻隊隊長になるまでの
顛末を描いた小説。魚雷艇学生


学生気分の抜けきらぬまま入隊し
軍隊の中で逆説的に人間関係と世間での
処世術を学んでしまう悲哀がユーモアとともに描かれている。



実用性に乏しい体力作りのためだけの訓練や
軍隊秩序維持のために行使される
修正という名の上官の理不尽な暴力
個人的な意見は一切抑圧された非人間的なの愚劣な日々を
予感と不安と体験と習慣というローテーションで甘受した先に
待ち構えていたものは特攻隊隊長への任命だった。



目前に迫った「死」を精神的動揺としてではなく
捉えがたい観念としてもてあましてしまうあたりに
異様なリアリティーが輝いている。


特攻隊になったとたん、怠惰に傾いていく主人公の感情は
意図せざる反戦的態度だ。



この小説はあらゆるエピソードが凝縮されていて圧倒されるが
第七章「基地で」に最も興味深いエピソードが現われる。


基地進出に当たってささやかな壮行会が特攻隊幹部で料亭にて催される。
宴もたけなわになる頃、突然隣の部屋から海軍下士官の一群が乱入し
「特攻隊が何だ、自分たちも何々だ」といいながら殴りかかり乱闘騒ぎになる。



特攻隊への反感感情の爆発という小事件であり、
死を目前にした特攻隊員にこんな仕打ちがあったのかと
当時における特攻隊崇拝の熱狂的な雰囲気を勝手に想像していた
私に鮮やかな一撃をくらわせた印象的なエピソードだ。


だが、私はこのエピソードを読んで、ある直感に撃たれた。


このエピソードだけは、島尾敏雄の創作なんじゃねえか?
という直感である。しかし、証明する手立てはない。
ないとは、いえないが、その前にも料亭での修正のエピソードがある。



私の直感や洞察力をいたずらに誇示したいわけでなくて、
たぶん、こういう肝心なエピソードに島尾敏雄の想像力が入らないかぎり
凡百の個人的な感傷の枠内の戦争体験談と変わらないと思う。



つまり、敢えて小説にしたというのは、島尾の深い企みがあるはずだと信じる。
感傷の泥沼に筆をとられることなく「魚雷艇学生」を書き継ぐには、
そこに想像力の自由が働く豊饒な余白があったからではないのか。



島尾敏雄というのは、そういう剣呑な作家だと私は勝手に確信している。
「死の棘日記」を私は未読だが「死の棘」にはずいぶん創作があると仄聞する。



島尾の作品内部に表れる繊細な感受性には、常に舌を巻きつつも
それだけが取り柄の作家だとしたら、あんなに惹きつけられないはずだ。
大胆な嘘をつく作家であって欲しいと願うのは贅沢な感傷であろうか。



ふつうだったらあんな草食動物が反芻しているみたいな人の作品惹かれないよ。
島尾のユーモアというのは、案外、グロテスクな想像力に根ざしてるんじゃないかな。
いや、そうあってほしい。



特攻隊隊員に殴られて鼻血だらけになった島尾のシャツが、
翌日きれいに拭い取られているというのは華麗な嘘のほころびかも。


島尾の想像力というものを考えながら読んで欲しい作品だ。
もちろん戦争の記録としても充分感興はあるけれども。
魚雷艇学生 (新潮文庫)


続編は「出孤島記 」「出発は遂に訪れず 」
この辺は文体も違って別作品のような印象がある。






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ラベル: 島尾敏雄
posted by 信州読書会 宮澤 at 10:10| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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